「受刑者に便宜を図る必要はない」政府の通知が阻む社会復帰 マイナンバーカード、出所後もすぐ取得できない仕組み
2022年版の犯罪白書によると、道路交通法違反を除く容疑で警察などに検挙された人のうち、再犯者が占める割合を示す再犯者率は近年、50%弱で高止まりしている。2020年に49・1%と過去最高を記録し、2021年も48・6%だった。マイナンバーカードを取得したいと思っても、自身で受け取ることはおろか、代理をお願いする人もいない受刑者が相当数に上る可能性がある。 結果として、支援機関によると元受刑者の多くがカードを持たないまま出所してきている。刑務所の人権相談に対応する「監獄人権センター」の塩田祐子さんは、受刑者や出所者が顔写真付きの身分証を持たないのは問題だと話した上で、身分証の選択肢がマイナンバーカードしかない場合、刑務所にいる間に取得しないとデメリットが生じうる、と警鐘を鳴らす。「取得には数カ月かかることもある。住まいや携帯電話の契約、就職がその分遅れてしまい、社会復帰の障壁になる可能性がある」
刑務所でマイナンバーを取得できない根拠となっているのが、法務省矯正局が全国の刑務所に送った2015年の事務連絡だ。 共同通信が情報開示請求したところ「受刑者に便宜を図る必要はない」と通知していたことが判明した。この書面では、収容中にマイナンバーを使う場面が想定されないため「釈放後に取得すれば足りる」とも明記されている。 ところが出所後も取得は簡単ではないことが分かってきた。 ▽住民票がなくなっている 出所後を支援する団体には、マイナンバーカード取得を手助けするところもある。香川県地域生活定着支援センターの相談員、高木泰子さんに、ある元受刑者がカードを手に入れるまでを振り返ってもらった。 支援したのは80代の高齢男性。常習累犯の窃盗罪で2年6カ月服役し、2019年に満期で出所した。出所時に福祉機関などの支援が受けられる「特別調整」により、香川県地域生活定着支援センターが男性の受け入れ先を調整した。男性は、行き場のない出所者が生活基盤を整えられるよう支援する民間の施設「自立準備ホーム」で一時的に生活することになり、住所変更手続きで市役所を訪れた。そのとき庁舎内でマイナンバーカードのポスターをたまたま目にして「自分も取りたい」と訴えた。