90%の病院が活用しているが…医療機関の「Wi-Fi」利用と課題【大学教授が解説】
病院スマートフォンのための安定的な通信手段の選定
電波環境協議会(EMCC)が策定したガイドラインによれば、病院で使用可能な通信方式として、 ・無線LAN(Wi-Fi) ・sXGP ・ローカル5G ・FMC(Fixed Mobile Convergence) の4つが例示されています。それぞれの方式には、独自の特長や利点、そして導入に際しての課題が存在します。以下、それらの選択肢について詳しくみていきます。 無線LANの利用と課題 無線LAN(Wi-Fi)は、多くの医療機関ですでに導入されている標準的な通信手段であり、約90%の病院がこの技術を活用しています。医師や看護師はスマートフォンやタブレット端末を使って、電子カルテの参照、患者認証、データ入力などを日常的に行っており、無線LANはそのインフラとして欠かせない存在です。 また、輸液ポンプやシリンジポンプなどの医療機器にもネットワーク連携が可能なものが現れています。機器のアラーム情報をリアルタイムで看護師に通知され、看護師は素早く異常に対応でき、業務効率が大幅に向上します。 しかしながら、無線LANにはいくつかの課題も存在します。最大の問題は先述のとおり、多数の端末が同時に接続することでネットワークが混雑しやすくなる点です。病棟の引き継ぎ時間帯には看護師が一斉に端末を操作するため、通信帯域が一気に圧迫され、データ速度の低下や音声通話の品質低下が起こりやすくなります。ローミングの際に音声が途切れて聞こえる場合も。そのため、緊急時における重要な音声指示が正確に伝わらないリスクがあり、患者の安全に影響を与える恐れも指摘されています。 以上の理由から、無線LANは便利で柔軟な通信手段である一方で、病院のような高負荷環境では安定した運用が難しく、適切な設計や管理が不可欠です。また、無線LANだけでなく、ほかの通信方式との組み合わせも検討することで、安定した通信環境の確保が可能になります。 sXGPの導入と利点 sXGP(Shared Xtended Global Platform)は、医療機関で注目される次世代の通信方式で、2018年に導入が始まった比較的新しい技術です。 sXGPは、「次世代PHS」として規格が整備されました。PHSが使用していた1.9GHzの周波数帯を引き継いでいます。既存の交換機と互換性があることから、導入コストを抑えながら、PHSからスムーズに移行できる点が大きな魅力です。また、sXGPは電波干渉が少なく、通信品質が安定しているという特徴も。無線LANが使用する2.4GHz帯とは異なり、1.9GHz帯を使用することで、家庭用機器との干渉リスクを軽減し、医療機器への影響も最小限に抑えることができます。 さらにsXGPの利点は、スマートフォンなどの汎用端末を利用できることです。これにより、医療機関は最新のスマートデバイスを活用しながら、従来のPHSの安定性を維持することが可能です。データ通信速度もPHSに比べて大幅に向上しており、電子カルテの参照や患者情報の入力など、リアルタイムでの重要な情報アクセスに十分な性能を発揮します。 sXGPは導入から数年しか経っていないため、まだ普及途上にありますが、最近では300床以上の大規模病院でも採用事例が増え始めていますし、複数の企業が導入支援を行っています。sXGPは、PHSの低出力と安定性のメリットを継承しながら、スマートフォンの多機能性を取り入れることができるため、病院内通信の新たな有力な選択肢となっています。