超円安の構図を読み解く~「国力低下」はトンデモ論、真因は内外金利差と経常収支の中身にあり
大幅な円安が続いている。1ドル=150円台という相場(名目相場)を「大幅な円安」と一般の人でも感じるのは、海外旅行をした場合に、例えば米国で1ドル=150円で換算した時に、国内の価格と比較して「高い!」と感じるからだ。 【写真】「金利上昇で日本銀行は破綻」という、メディアが騒ぐ「トンデモ論」を斬る この時、人は通貨の購買力で為替相場を評価していることになる。つまり1ドル=100円の時に比べると、米国の物価は円換算にすると50%も上昇しており、それを高いと感じているわけだ。 振り返ると、1980年代後半から90年代半ばまでの円高進行の時期(1ドル=160円⇒80円)には、日本人が海外旅行に出ると「安い!」と感じて、高級ブランド物などを買い漁って帰国する風潮が広がった。今は逆で外人観光客の「爆買い」がデパートなどの売り場を賑わせている。
円安の2つの要因
なぜ大幅な円安が起こったのか。まずそれを読み解いてみよう。この点では私を含むエコノミストの見解は、次の2点で説明できると考える点で、概ねのコンセンサスがあるように思える。ひとつはマネーの動き(金融的要因)、他ひとつは円相場を巡る経常的な需給の構造的な変化だ。 ■図表1 第1の金融的要因は内外金利格差の拡大である。図表1を見て頂きたい。今回の急速かつ大幅な円安は2022年3月頃を起点にしており、図に示した日米の金利格差(10年物国債利回り)の拡大と歩調を合わせてドル高・円安が進んだ。 経済学の外国為替相場に関する標準的な理論である「金利平価原理」は2国間の金利差が拡大する時は、金利が上昇する通貨の相場が他方の通貨に対して上昇することを語っている(ただし長期的な為替相場の将来期待値が変わらないことを前提)。 急ピッチなドル金利の上昇の原因は、言うまでもなく新型コロナ不況後の米国(そして欧州)が、国際資源価格の高騰もあり、予想外のインフレ高進に見舞われた結果、欧米の中央銀行が急ピッチの金融引き締め・金利引き上げに舵を切ったからだ。 ところが、米国の消費者物価上昇率がピーク時に前年同月比9.0%(2022年6月)まで高進したのに比べると、日本の消費者物価の上昇率はピーク時でも同4.4%(2023年1月)にとどまり(今年3月は同2.7%)、日銀は「基調的なインフレ率は十分高まっていない」との判断で10年物国債利回りのレンジは拡大したが、金融政策の基本的な変更は今年の3月まで行わなかった。その結果、日米(あるいは日欧)の金利格差が拡大し、円相場は大きく円安に振れ、現在に至っている。