恋人のあいだは良くても、結婚するととたんに人間関係が難しくなるワケ
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
家庭での役割の悩み
恋愛中は互いに快適な恋人の役割を果たしていればいいですが、結婚すると、新たに妻と夫という立場になり、さらに嫁と婿、子どもが生まれれば母と父というように、さまざまな役割を演じなければならなくなります。男女とも家庭人および社会人の役目も果たさなければなりません。 嫁と婿の立場は特にむずかしく、好きでもない他人である姑や舅と付き合う必要があります。互いに賢明で人柄がよければ良好な関係を結べますが、心が狭かったり、権威的だったり、配慮に欠けたり、わがままだったり、迂闊だったり、感情的だったりすると、危険をはらむことになります。 嫁姑問題は、有吉佐和子の『華岡青洲の妻』を読むまでもなく、古来、普遍的な困難で、母親が息子を溺愛している場合などは、あたかも嫁が恋敵のようになり、言葉の端々にトゲがまじり、表向きは笑顔でも裏で意地悪や悪口の連発ということになりかねません。嫁は嫁で泣いたりわめいたり、絶縁を求めたりして夫を苦しめます。母親も息子を嫁に取られまいと、強気に出たり、衰えを誇張して同情を買ったりして圧力を強めます。板挟みになった夫兼息子は大きなストレスを抱えることになります。 母親と妻がうまくやってくれるとありがたいですが、逆に仲がよすぎると、二人が結託してあれこれ要求したり、苦情を言うようになったりして、息子兼夫はこれまたストレスにさらされます。 舅と婿の関係も微妙で、互いにつかず離れずの関係が平和なようです。 子どもができると、舅と姑は祖父、祖母となるので、関係が改善されることもあります。嫁と婿は血のつながりがないけれど、孫は直系なので、孫を介してそれまでのわだかまりが解消されるからです。 祖父母はある意味、気楽な立場ですが、父と母はそうはいきません。赤ん坊や子どもはかわいいですが、言うことを聞かない、ものを壊す、汚す、暴れる、泣き叫ぶ、なかなか寝ない、ミルクを飲まない、飲んでももどす、野菜を食べない、好き嫌いを言う、病気をする、夜泣きをするなど、手がかかり、思い通りにならないことも多いので、子育てはたいへんな重労働です。 私も娘夫婦の子育てを見ていると、その困難さにほとほと同情させられます。よほどの心の準備がなければ、感情的になって、怒鳴ったり、叩いたり、虐待の一歩手前までいくのも致し方ないかと、容認せざるを得ないこともあります。 今は子どものできない夫婦も増えていて、妊活も珍しくなくなりました。子どもがほしいと願う夫婦は、子どものかわいらしさ、かけがえのなさにばかり気持ちが向いていますが、子育ての厳しさ、過酷さを甘く見ていると、いざ、子どもを授かったあと、産後うつから虐待、場合によっては心中に至る危険もあることを知っておく必要があるでしょう。 今は結婚適齢期が死語となり、十代で子どもを持つ早婚カップルもいれば、三十代後半で初産を迎える晩婚カップルもいます。早婚カップルは、体力があるので子育てには有利ですが、生活基盤が弱いため、経済的に苦労する危険があります。逆に、晩婚カップルは経済力があるので、生活には余裕がありますが、体力がついていかず、子育てに苦労することも多くなります。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)