卓球女子シングルス・パリ五輪代表、残る一枠は平野美宇の手に。挑戦者精神が生んだ「角度」と「緩急」の変化
打倒中国へ! 新しいハリケーンへの期待と課題
伊藤が6回戦で敗れ、平野がベスト8。これにより平野がパリ五輪代表に内定となった全日本選手権。 では、実際にパリ五輪の舞台に立った時、平野が無事に勝ち上がり、そして中国に勝つというところまで到達できるかという視点ではどうか。 平野の大物食いをできる、「爆発力」は圧倒的だ。 あとは、「取りこぼし」を減らしたい。いや、全日本選手権やオリンピックなど、選び抜かれた精鋭が集う誰もが強い大会であれば、「取りこぼし」という概念ではないのかもしれない。 しかし、全日本選手権ではベストで8で、今大会でブレイクした赤江夏星に3-4で敗れている。2023年11月の全農CUP大阪大会でも準々決勝で長﨑美柚に敗退。その後の5-6位決定戦でも、大藤沙月に敗れている。こういう負け方もあるところは、大舞台でも恐いところだ。 パリ五輪では、世界ランクがどれだけ下の相手だろうとも「全試合が山場」。そんな意識を持った戦い方をしたい。団体戦のメンバーとしても出場することを思えば、平野にとってその心持ちこそが最終形態へのバージョンアップではないだろうか。 そしてこの課題は、平野自身が誰よりもわかっているはず。ここに至るまであらゆる苦難を乗り越えてきた平野美宇。パリ五輪のトーナメントでも、強敵を一人、また一人と倒したその先に、中国選手をスピードと緩急と角度で圧倒する“絶景”が待っているはずだ。 パリ五輪の代表が決定した今、思い出す光景がある。 2014年のドイツオープン。伊藤と平野はダブルスを組み、当時13歳の2人は史上最年少優勝を果たした。賞金が50万円以上と聞いて驚くあまりにも愛嬌のある2人の笑顔の写真が世界中で話題となった。 あれから、10年。 一気に階段を登り詰めた伊藤。長い苦難の道を乗り越えた平野。どちらの道にも間違いなど一つもなく、どちらも「卓球」に、そして「オリンピック出場とメダル獲得」のために、一心不乱にすべてをかけて打ち込んできた誇るべき道のりだ。 2人が歩んだ2つの道。そのどちらをも称えながら、パリ五輪を楽しみに待ちたい。 <了>
文=本島修司