大詰め自民党総裁選、声の専門家が読み解く「最有力候補」の隠された本音と実力
時に聴き手に緊張感や息苦しさを与えてしまう声
■河野太郎(デジタル相) 声の力という意味では、大変な損をしている人である。高く硬い音色は、聴き手に無意識下で頑迷さを感じさせる。本来はもっと落ち着いた声であるはずだが、上から畳みかけるような話し方と相まって、聴き手との間に見えない壁をつくってしまっている。以前の河野氏の声は同じように高く硬質ではあったが、もう少し透明な響きを持っていた。最近の声には雑音が多く含まれるようになっていて、疲れなど健康状態が心配される。 また、喉頭を高く保ったまま話す河野氏の発声には、徹底した合理主義が表れている。普通、息を吸うときには交感神経優位で喉頭が上がるが、吐くときには喉頭は下がり、副交感神経優位となる。息を吸って喉頭を上げた状態のまま話している彼は、政治の場でのリラックスは非合理であると捉えているかのようだ。 それは聴き手にもそのまま伝わってしまう。息を吐くことで副交感神経が働く状態を声から感じられないために、聴いていて呼吸が苦しくなり、聴き手の喉頭も同じように上がろうとしてしまう。これは人間の脳のミラーリングシステムの働きによるものだ。 聴き手が楽な気分であるときこそ言葉がふに落ち、思考が働き始めるものだが、河野氏の声は時に聴き手に緊張感や息苦しさを与えてしまう。先進的なだけでなく、本来は朗らかで楽しい方だと思うのだが、分からないヤツは分からなくて結構、と声が人を遠ざけている。もったいない。
頭の回転に口が付いていかない
■茂木敏充(幹事長) なぜか後ろに引っ張られるような引っかかりを感じさせる声である。舌骨が常に少し高めの位置にあるために喉頭も上がり気味。これは舌根に力が入っていることによるものだろう。リップノイズを気にして不要な力が入っているのかもしれない。 音色には柔らかさがあるので、もう少し喉頭を下げ、音程も下げることを意識すればより説得力のある声になるはずである。共鳴腔も広いので、もっと朗々とした声を出せるはずだが、地声があまり聞こえてこないのは、地声域で使われるべき声帯の筋組織がきちんと振動していないためのようである。 演説になるとさらに声が硬くなって、素晴らしいことをやっていても、それを伝えるべき場面で声の良い部分が引っ込んでしまう。頭の回転に口が付いていかずにかすかなタイムラグが生じるのも、言葉が真っすぐに届かず残念だ。 ◇ ◇ ◇ 人を知るには、まずはその声をよく聴くことだ。声は、その人の考え方、価値観、そして人となりまでも映し出す。政治家の声に耳を澄ますことで、私たちは彼らが何を考えているのか、そして彼らがどのような未来を描いているのかを知ることができる。 たかが声、ではない。誰が選ばれるのか、その人はどんな声か。それによって、歴史の歯車がどちらに回り始めたのかが分かるだろう。
山﨑広子(音楽・音声ジャーナリスト、「声・脳・教育研究所」代表)