大詰め自民党総裁選、声の専門家が読み解く「最有力候補」の隠された本音と実力
焦りがすぐに声に出る、あまり嘘をつけない正直な人柄
■小泉進次郎(元環境相) 少々ズレたことを言っても人気があるのは、力強く張りのある声の力も大きいだろう。声帯から発せられる喉頭原音はあまり低くはなく小林鷹之・前経済安全保障相とほぼ同じ高さだが、聴き手には小泉氏の声のほうが低く聞こえるはずだ。 小泉氏が声を張る際には、喉頭が上がり声門閉鎖が強く圧のある声となる。ある特定の位置で高い周波数の倍音が強く生じるが、長く持続させることはなく、すぐに喉頭を下げて広い空間で声に低い響きを加えている。つまり、明るく高い音と低い響きが同居している。 聞くところによると中高は野球部だったとか。音が拡散してしまう野外で喉を傷めずに大声を出し続けるためには、効率的で強い共鳴が必要となる。小泉氏もそのようなスポーツマンが自然に体得する発声法だが、語尾で最も低い音域まで落とすテクニックは、かなり自分の声を意識的に使い、鍛えてきた証しだろう。 演説中でも人の話を聞いているときにも無駄なまばたきがなく、常に相手の目をしっかりと見る彼は、政治を人々の期待に応える劇場と捉えているのかもしれない。一方で焦りがすぐに声に出るあたりは、あまり嘘をつけない正直な人柄のようである。 また、構音(発音)の際に軟口蓋があまり動かない硬さを感じることがある。音声としては少し鼻に響いたように聴き取れる音だ。これはこだわりの強さや、何かを抑えていることを示している。政治劇場を降りた場面ではおそらく全く別の人格があって、実はそちらが彼の望む生き方なのかもしれない。
迫力と優しさを備えた、はっきり言って美声
■石破茂(元幹事長) はっきり言って美声である。体格のとおり声帯は長めで厚く、低い音域が出るにもかかわらず、圧の強いマッチョな声にはあえてしていない。これは声帯閉鎖を意識的に緩め、咽頭腔でも柔らかい共鳴を生じさせているためだ。 原音が声になる際にさまざまな倍音が生じて、それが一人一人の声の個性をつくっているのだが、石破氏の声も高めの倍音が程よく出ていることで、迫力と優しさを備えている。迫力を感じるのは、いつでも圧の強い声が出せる素質が見え隠れするからだ。そして常に喉頭位置が安定しているために、声に緊張や動揺が出ることがない。 街頭演説などでは通常、緊張や興奮によって喉仏の上にある舌骨が上がり、舌骨と一体となって動く喉頭もまた上がってしまう人がほとんどである。その結果、不必要に高く張り上げた声や絞り出すような苦しい声になってしまう。しかし、以前に渋谷区の騒がしい街頭での石破氏の演説を聞いたことがあるが、沈黙の後の第一声は驚くほど柔らかく低い声だった。これは並の人にできる技ではない。 呼吸と声だけでなく、精神のコントロールも非常に上手な人である。言いたいことがどれほどあっても、ゆったりとした話し方はあまり崩れることがない。それは柔らかな声との相乗効果でかんで含めるような説得力を持つ。 が、このところ少し鼻に空気が抜けにくかったり滑舌が悪くなったりしていて、気力が少し萎えているように感じられる。唯一惜しいところだ。