大詰め自民党総裁選、声の専門家が読み解く「最有力候補」の隠された本音と実力
<政治家の声は政治家を丸裸にする──声は、その人の心身状態や伝えたいこと、伝えたくないことを容赦なくさらけ出す。投開票が近づいた自民党総裁選挙の有力候補を専門家が分析すると、意外な実力と隠された本音が明らかに>
声は、驚くほど多くの情報を包含している。そして私たちは無意識のうちにその情報を受け取り、脳の奥深くで評価を下し、イメージをつくり上げている。【山﨑広子(音楽・音声ジャーナリスト、「声・脳・教育研究所」代表)】 ゼレンスキーが「世界に訴えかける」プロである理由は、声を聴けば分かる 聴覚は視覚に比べて無自覚な感覚器だ。目は閉じることができるが、耳は容易に閉じられない。無自覚だからこそ、声は人の感情や思考に直接働きかけることができるのである。声のトーン、リズム、スピードは、その人の心身状態や伝えたいこと、伝えたくないことを容赦なくさらけ出すし、声に込められた感情は、言葉の意味を超えて聴き手の心を動かしてしまう。これが声の影響力である。 声は誰にとっても大切なコミュニケーションツールだが、政治家にとっては特に重要な武器となる。歴史を動かした政治家たちは皆、声の力を巧みに利用してきた。声を通じて感情を揺さぶり、共感を呼び起こした......良くも悪くも。アドルフ・ヒトラー、ウィンストン・チャーチル、キング牧師など、その声の持つ影響力が人々を行動へと駆り立てたのだ。私たちは彼らの声を知ることで、その時代の人々が何を求めていたのかも理解することができる。 当然ながら現代の政治家たちも声の力を最大限に活用し、有権者の心をつかむことが求められている。このところ毎日のように耳に届く自民党総裁選の立候補者たちの声には何が表れているだろうか。5人を選んで分析してみたい。
声を見事に使いこなす女性リーダーの1人
■高市早苗(経済安保相) 女性議員の中でも特に低く、平均して150ヘルツ前後の声である。声が低くなり続けているアメリカやドイツの女性キャスターの標準に近い。高市氏の声からは170センチくらいの高身長を想像するのではないだろうか。実際の身長に対応する声よりも低いのは、顔の共鳴腔(体の中で声が反響する空洞部分)が長いことと彼女の価値観による努力のたまものだ。 低い声は聴き手に信頼感や落ち着きを与えるものだが、低くても発音が不明瞭だったり単調だったりすると聴き手は飽きてしまう。しかし高市氏は、重要な言葉を明瞭に発音し、関西人らしいリズム感、そして場に応じた抑揚を使い分ける。自身の声を「聴覚フィードバック」によって瞬時に、思いどおりに調節できるのは、音感と運動神経が優れている証拠だろう。そしてどんな場面でも、定規を当てているかのように基音域に即座に戻れるのは、確固たる自分軸があるからできることだ。 また一定の声量を保ち続け、乱れることのない呼吸からは、彼女の気力、体力、自信、そして肝の太さが感じ取れる。表情が変わるとそれがすぐに声に表れるのも、彼女の特徴だ。笑顔になると、目を閉じて聞いても分かるほど声が明るく華やぐ。声に感情が乗りやすいため、嫌悪や不機嫌な状態も声に出てしまうが、公の場ではそれを完璧に律する強さも持ち合わせている。 彼女の安定した力強い声は、政治に関心のない層にまで熱意を伝えている。小池百合子東京都知事とは対照的な声であるが、高市氏もまた声を見事に使いこなすリーダーの1人である。