なぜ川崎初Vのルヴァン杯決勝は歴史的名勝負になったのか?
思い描いた弾道がゴール左上へ吸い込まれる。再びリードを奪った豪快な一撃の直前には、実は約4分間におよぶ中断があった。コンサドーレのMFチャナティップの突進を止めたDF谷口彰悟へ提示されたイエローカードが、決勝トーナメントから先行導入されているVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定の結果、レッドカードへ変更された。 騒然とした雰囲気のなかでも、福森は集中力を途切れさせなかった。しかし、フロンターレの鬼木達監督が直後に切った交代のカードが、10人になったフロンターレの戦意をつなぎ止める。 センターバックが退場する非常事態で、大島に代わって投入されたのは控えのセンターバック奈良竜樹ではなく、右サイドバックのマギーニョだった。右サイドバック登里享平が左に、左サイドバックの車屋紳太郎がセンターバックに回ったさい配の意図を、大黒柱のMF中村憲剛はすぐに感じ取った。 「両サイドで運動量と推進力を確保することで、ボールを握る場面とアグレッシブにいく場面を使い分けていこう、と」 右にマギーニョ。そして左には、延長前半開始とともに投入されていたドリブラーの長谷川。体力的にフレッシュな選手が縦への槍と化して、追加点を防ぎながらチャンスをうかがう。 「一人少なくなってからの常とう手段じゃないけど、カウンターとセットプレーはチャンスになるとみんなが感じていた。あのときの迫力と集中力は、すごいものがあった」 中村が言及した「あのとき」とは、延長後半4分に自らが放った左コーナーキック。ファーサイドにいた山村が体勢を崩しながら中央へ折り返したボールへ誰よりも早く反応し、右ひざのあたりで押し込んだのが小林だった。執念をむき出しにした同点弾。試合終了直後には思わず目を潤ませている。 「途中出場だったけど、タイトルが決まる試合でゴールを決めるのは自分だ、と言い聞かせながら今日はずっとプレーしていた。純粋にそれだけを信じていました」