【CEOと参加ブランドに聞く】支払い遅延に売上低迷──ショーフィールズ 破産の裏で何が起きていたのか?
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。 【CEOと参加ブランドに聞く】支払い遅延に売上低迷――ショーフィールズ 破産の裏で何が起きていたのか? 自称「世界でもっとも面白い店舗」であるショーフィールズ(Showfields)が10月6日、連邦倒産法11章を申請したことをブランドパートナーにメールで通知した。このメールには「破産」という用語は使われていない。ラブドット(Love Dot)創業者のネネカ・ウーデ氏は、この通知に驚かなかった。 ウーデ氏のブランドは、アフリカのデザイナーと共同製作したカプセルコレクションを販売し、買い物客がエシカルファッションを簡単に見つけられるようにすることを目標としている。5月から、ショーフィールズのワシントンD.C.の店舗で商品を販売してきた。 しかし、ウーデ氏は7月31日以来、10月6日に突然入金が行われるまで、ショーフィールズから支払いを一切受けてこなかったと語る。9月に店舗を訪問したときに話した従業員もまた、予定通りに賃金を受けていなかったと語っていたことから、同氏はLinkedInでショーフィールズの最高収益責任者に連絡することになった。 ウーデ氏がショーフィールズに抱いている不満はこれだけではなかった。ショーフィールズのダッシュボードには在庫レベルが正しく表示されていないと、同氏は訴えた。自社の商品について人々が店舗でどのように反応していたかについて、訂正的なデータを得ることも困難だったという。売上もまた低迷していた。 ウーデ氏は6カ月間の展示のために、約2万ドル(約302万円)をショーフィールズに支払った。「投資すべてを完全に回収することは必ずしも考えていなかった」と同氏は述べる。しかし、ショーフィールズのダッシュボードによれば、6カ月が終了した時点で、ラブドットがショーフィールズを通して販売できた在庫は約5900ドル(約89万円)分しかなかった。そして、ショーフィールズはラブドットに対してまだ1400ドル(約21万円)の負債があると同氏は話した。 ほかのブランドも、ショーフィールズに関する同じような経験を報告している。米モダンリテールは昨秋までさかのぼり、ショーフィールズのさまざまな店舗で販売を行っていた合計6つのブランドに話を聞いた。これらのブランドのすべてが、ショーフィールズでの収益を明らかにしたわけではないが、すべてのブランドは売上が予測より少なかったと回答した。また、4つのブランドは、期日通りに支払いを受けることができなかったと報告している。これらの問題は、ショーフィールズが対象としていたのが、ビジネスを加速させたいと考える小規模なブランドだったということによって、さらに悪化した。多くのブランドは、ショーフィールズは小売業への最初の進出だった。によって小売に初めて進出した。 新しい価格体系と分析ツールをテスト導入 ショーフィールズが連邦倒産法11章を脱した後、具体的にどのような見通しを描いているのかが気になるところだ。裁判所に提出された申請書によれば、同社は約1000万ドル(約15億1000万円)もの負債を抱えている。同社の苦境に拍車をかけているのは、CEOであるタル・ズヴィ・ナサネル氏もまた、10月22日に個人として破産を申請したことだ。 ナサネル氏は米モダンリテールの取材に対し、個別のブランドの体験に対するコメントを控えた。「この5年間にわたって行ってきた運営や執行が完璧だったかというなら、もちろんノーだ。過去1年間にパートナーへの約束の一部を果たせなかったかというなら、間違いなくイエスだ」と、同氏は述べている。 ナサネル氏は、ショーフィールズの課題の多くは、Covid(新型コロナウイルス感染症)の前に2つの店舗について契約したリースが、パンデミックの後に、あまりに高価だと判明したのが理由だとしている。「その結果、維持できない額の賃貸料を払うことになり、実際は健全だったビジネスのほかの部分も厳しい状況になった」と、同氏は説明した。米モダンリテールが先日報じたように、ショーフィールズは今年前半に、これらの店舗を閉店することになった。 ナサネル氏は、米モダンリテールへの声明で、ショーフィールズが今後実験的に導入する新しい価格体系と、同ブランドが開発してきた新しい解析ツールについて説明した。これらはすべて、ショーフィールズのROI(投資回収率)を証明することを目的としている。 「売上だけで判断すべきではない」 この問題の核心にあるのは、ショーフィールズのようなサービスはブランドにとって価値あるものなのか? という疑問だ。この問題への回答は、どのような基準でショーフィールズを判定するのか、ブランドの目標は何なのかによって異なる。ナサネル氏は、ショーフィールズのコストを、新興ブランドの予算のほかの使い道と比較している。広告リテーナーは毎月1万5000ドル(約227万円)から2万ドル(約302万円)のコストを要し、売上の促進に直結するわけではない。ポップアップ店舗はより細かいコントロールが可能だが、設置のコストの10万ドル(約1510万円)かかることもある。 ナサネル氏は、ブランドがショーフィールズの活動の価値を、売上だけで判断すべきではないと主張した。これまでの5年間に、ハイネケン(Heineken)やラッシュ(Lush)のような大手も含めて700を超えるブランドがショーフィールズを利用しており、「ブランドごとにKPI(重要業績評価指標)は異なる」と、同氏は述べている。このモデルは現在予定されている調整によりさらに改善されると、同氏は考える。ショーフィールズの次の段階は、「リテールメディアとパフォーマンスベースのリテールとが交差するところ」にあると同氏は表現した。 販売よりもアクティベーションする場 しかしながら、ショーフィールズと最近仕事をしたブランドの創業者たちは、複雑な反応を示している。その中には、ショーフィールズの問題を、正しいビジネスモデルを見つけ出そうとしている新興企業のせいにする創業者もいる。また、初めて経験した大規模な小売が、予測したよりも少ない売上に対して滞納金を追及しなければならなかったという事実に嫌気がさし、寛容さを欠く者もいた。 大きな話題となった実店舗小売の新興企業(そして以前には口先でうまいことをいっていた企業)として、参加ブランドは、最終的にショーフィールズがより多くの売上を上げることを望んでいた。ショーフィールズは過去のピッチデッキで、「世界最高の顧客体験」を提供すると自称していた。 THC(テトラヒドロカンナビノール)セルツァーを販売している企業キャントリップ(Cantrip)の共同創業者兼CEOのアダム・テリー氏は、「我々は大きな期待を寄せていたが、売上金額の観点からは成功しなかった」と語る。「しかし、商品を宣伝しようとするときは、多くの方法を試みるものだ。そのすべてが実際にうまくいくわけではない」。同氏は、自社ブランドがショーフィールズのノーホーとブルックリンの拠点にあるギフトショップで冷蔵庫に数カ月間置かれ、1000ドル(約15万1000円)から2000ドル(約30万2000円)分の商品が売れたと推定している。 ショーフィールズでの商品の販売を2月に開始したリプリーズヘルス(Reprise Health)の共同創業者でCOO(最高執行責任者)を務めるカイ・リム氏は、「ショーフィールズは創設当初から、常に自社を、販売チャネルというよりも、むしろアクティベーション(活動)する場として位置づけていたと思う」と話した。「しかしそれならば、ブランドはその活動のためにどれだけの対価を支払うつもりなのかが問題になるだろう」。