「競輪の変化は先読みしていた」名伯楽・高木隆弘が明かす弟子への思い「北井佑季のレベルアップは必然、まだ強くなりますよ」/独占インタビュー
◆netkeirin連載「ノンフィクション」名伯楽・高木隆弘独占インタビュー前編/ダービー開催記念特別版 今年に入って一段と飛躍する姿を見せている北井佑季。いわき平GI・日本選手権競輪開催前には賞金ランキング5位に位置しており、“タイトルに近い男”として競輪ファンの注目を集めている。昨年、北井にインタビューした際に「すべて厳しくしてくれた高木師匠のおかげです」と師匠・高木隆弘への感謝の言葉が絶えなかった。 また、ガールズグランプリ2021を制した高木真備氏も連載コラムで「高木さんがいなかったら達成できていない」との言葉を残している。弟子たち、あるいは指導を受けている教え子たちが「高木さんは厳しい」という決まり文句とセットで語る言葉がある。「高木さんの言葉を心から信じられる」だ。これはどういうことなのか? タイトルホルダーかつ名伯楽・高木隆弘に会いに平塚競輪場へ行った。 ーー高木さん、今日はインタビューを受けていただきありがとうございます。 高木隆弘(以下:高木) いえいえ。それより、僕が名伯楽? 自分にそんなイメージがないですよ(笑)。インタビューの企画書を見たときに「オレでいいの?」って思っちゃった。 ーーすでにウィキペディアにだって書かれています。名伯楽と呼ばれることに対してどのような感想をお持ちでしょうか? 高木 とても光栄です。僕がやってきたことが評価されたり、みなさんに浸透したりの結果なのでね。やってきた甲斐があったなと思える。嬉しいことです。 ーー今日は育成や指導における考え方や師弟エピソードについても聞きたいのですが、今の時代の競輪について、高木隆弘の人物像について、など幅広くお話聞かせてください。 高木 わかりました。どんなことでも聞いてください。
複数のタイトル保持者として語る「GI制覇の前提条件」
ーーはじめに、競輪祭新人王、全日本選抜、高松宮記念杯(2度制覇)のタイトルホルダーとして思う「GI制覇に必要なもの」は何でしょうか? 高木 「絶対的な自信」だと思います。確信を持って競走に臨めているのかどうかで、結果が左右される気がします。GIともなれば、みなさん優勝を狙えるところまで来ている人たちばかりです。でも「本気で狙っている」のか「出場するために来た」のかみたいな部分に違いが生まれるんですよ。 ーー心の持ち方で違いが生まれる? 高木 優勝を獲りに行ける段階にいる人たちの中で「獲っていく人」と「獲らないで終わっちゃう人」の差を自分なりに考えたことがありました。勝ち上がりを進めて行けば、周囲は「絶対的な自信、確信」を持っている人ばかりです。みんながみんな、そのつもりで競輪場へ来ている。その中でも“ひときわの念の強さ”を心にとどめて、しっかりと行動に、競走にそれらを宿せる人が、やっぱり勝っていると思います。 ーーその絶対的な自信はどこから湧くものでしょうか? 高木 誰よりも何かを一生懸命やってきた、誰よりも練習してきたとか。やっぱりそういう「根拠になるもの」は大事ですよね。それらが自信になるわけだし、その自信が練習で磨いた能力を最大限、本番で発揮させる要因にもなる。 ーーやはり根拠は必要なものなのですね。 高木 そうですね。自信ってプロセスの中で作っていくものだと思います。GI制覇する・しないの話じゃないんですけど、例えば子どもの運動会の徒競走。自信を持ってチャレンジさせるのと、不安のままでは結果が全然違う。「できる、できる!今回はやれるぞ!」って一緒に練習したりしながら自信をつけるとうまく行ったりする。僕は子どもを育てるようになってから、本当に自信の大切さに気がつかされること多いですよ。 ーー持って生まれた才能は関係ないものでしょうか? 高木 関係ないと思いますよ。それこそ競輪は特に関係ないんじゃないかと思いますね。 ーー「競輪は特に関係ない」はなぜですか? 高木 持って生まれた体だけではなくて自転車を使うからです。パーツやセッティングや、フォームなどさまざまな要素が追加されます。工夫してカバーできる。どんなに素晴らしい体を持っていても自転車にパワーが伝えられなかったら意味がないでしょう?道具を使うということは「工夫できる」ということ。試行錯誤を根気強くやって、自分の走行スタイルに合うものを見つければいい。素質があるやつに素質がないやつが匹敵するための道が競輪にはあるんですよ。 ーーよく『速いと強いはイコールではない』と聞きますが、それはどういうことでしょうか? 高木 競輪はセパレートコースを真っすぐに走るわけではありませんからね。コースもルールさえ守れば自由だし、場面場面で緩急もある。どんなに速くても、脚を使わされる競走になってしまえば、勝つことができません。速いと強いは全然違うと思います。筋力を上げればスピードは付くのかもしれないけど、それだけでレースが強くなるわけではないかな。 ーー今の時代の競輪、レーススタイルをどう感じていますか? 高木 機動型が有利で、追い込み選手は不利だと思います。昔と今で圧倒的にそこのバランスが違うところですね。追い込み選手でも多少の自力は打てないと勝負にならない感じがあります。後伸びしていく競走形態がやっぱり多くなっています。 ーーそれは選手のスタイルが変わったということでしょうか? 高木 それもあるのかもしれないけど、僕はルールじゃないかなと思います。走りの幅は制限されたし、ブロックひとつ挙げてもルールの中では「止めきれない」っていうんでしょうか。もっと持って行きたいけど持って行けないとかもっと締め込みたいけど、締め込めないとか。そういう流れを前提としたルールになっているので必然だと思いますけどね。