【訂正】『虎に翼』“最凶のブーメラン”にどう対峙? “本当の自分”に戻った寅子がするべきこと
心が折れてからの寅子(伊藤沙莉)がキラキラして見えなかったのは……
寅子自身、かつて、花岡(岩田剛典)を崖すれすれまで小突いた結果、彼は崖から落下し大怪我を負った。よねはかつて、小橋(名村辰)の無礼な態度に怒って股間を蹴り上げた。 涼子(桜井ユキ)はそのときのことを覚えていて、自分なりの股間の蹴り上げ方(要するに生き方)を模索したすえ、司法試験を受けて合格したうえで弁護士にはならず、カフェを営業する生き方を選択する。他者から勝手に落ちぶれて可哀想と思われたくない。どんなことでもすべて自分が選択したのだと前を向いて堂々と生きていきたいという切実な思い。 法律を学んできた涼子が法律の変化によって貴族としての地位も財産も奪われたのだから、試験に受かる実力は示しながらもその世界では生きない(でも教える仕事はするらしい)ことを選ぶ涼子独自のプライドのありかたを感じるエピソードである。 よねは、男装とぶっきらぼうな口調と無愛想なふるまいのまま50代を迎えたが、人知れず、そのきっかけとなった弁護士に身を任せた忌まわしい記憶をずっと抱えこんでいた。だからこそ、美位子の気持ちが誰よりもわかる。 仕事も育児も両立させたかった寅子はそれを他者に阻まれた。個人の自由を、たとえ小さくとも可能性の芽を、他者から口出しや手出しされる口惜しさ。桂場が、司法の独立を守るため、政治に物申す若い判事たちを左遷させるなど、あってはならないし、少年法の改正や尊属殺を合憲とすることは、少年や親を殺さざるを得なかった子どもの気持ちを理解していないことになる。 心が折れてからの寅子が眉間にシワを寄せ、キラキラして見えなかったのは(優未は仕事をしているときはキラキラしていると言っていたが)、憲法が変わったとはいえ、彼女を、女性を、いや人間を、抑圧する重たい天井や壁がでんと微動だにせず存在し続けていたからではないだろうか。だから寅子は声を挙げ続けたし、子どもや部下、若者たちが声をあげることを勧める。 ところが、寅子はかつて、独自の個性や考え方を持っていた美佐江を、犯罪者=悪=こわい=子どもに危害を与えそうというような、寅子視点によってカテゴライズしていた。そのため、美佐江の可能性の芽を摘んでいたことが20年経ってわかる。寅子もまた穂高と同じことを下の世代に行っていたのである。この最凶なブーメランに寅子はどう対峙するだろうか。 ※記事初出時、以下表記に誤りがございました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2024年9月24日09:50、リアルサウンド編集部) 誤:義父 正:父
木俣冬