KDDI、ミャンマー情勢受け最終益6%減。社長「新興国投資は難しい」
KDDIは5月10日に、2024年3月期通期の決算を発表した。 KDDIはここ数年来、菅義偉前首相の政権下によるいわゆる「携帯電話料金の官製値下げ」に加え、円安などを機とした燃料費や電気代の高騰などに苦しんでいが、ここ最近は業績回復基調にあった。 【全画像をみる】KDDI、ミャンマー情勢受け最終益6%減。社長「新興国投資は難しい」 だが通期の決算ではその業績が急激に悪化。売上高は前年同期比1.5%増の5兆7540億円と増収だったものの、営業利益は同10.7%減の9616億円、純利益は同6.1%減の6378億円と減益となっている。 その大きな理由はミャンマーでの事業にある。その詳細を解説しよう。
住友商事、ミャンマー国営郵便との共同事業で減益
KDDIは2014年に住友商事と共同で「KDDI Summit Global Myanmar」(KSGM)を設立、ミャンマー国営郵便・電気通信事業体(MPT)と共同で事業を展開。 だが、2021年に起きた軍事クーデター以降、KSGMの事業にはさまざまな影響が出てきている。 今回の減益に大きく影響したのが、MPTに対するドル建てリース債権の回収が遅れていること。その影響で、KSGMが1050億円の貸倒引当金を計上したことが減益要因となった。 KDDIの髙橋誠社長は、ミャンマーでの事業に関して従来の方針を変えておらず、従業員の安全を確保しながら事業自体は今後も継続するとしている。 一方で、新興国ならではの不安定な政情がリスクとなり、予想していた成長を見込むのが難しくなってしまったのも確かで、心境を以下のように語っている。 「新興国に対する投資は、なかなかやっぱり難しいと個人的には思っている」(髙橋氏)
中計の見直しを実施。生成AIをコア事業に
ミャンマー事業への投資は、KDDIの成長に向けたエンジンの1つでもあった。 その事業で成長を見込むのが難しくなっており、どのようにして事業成長の軌道修正を図ろうとしているのか。髙橋氏が打ち出したのが、中期経営戦略の見直しである。 KDDIは2022年に発表した中期経営計戦略で、2025年度までにEPS(1株当たり純利益)を2018年度対比で1.5倍にすることを目指すとしていた。 だが、通信料金引き下げやミャンマーの政変など想定外の事象が相次いだことでその達成が厳しくなったため、中期経営戦略の期間を1年延長する。 また、5G通信をコア事業として、金融やエネルギーなど5つの領域に注力し事業を拡大する事業戦略「サテライトグロース戦略」もアップデートするとしている。 具体的な変化は2つある。1つ目は、AIを新たなコア事業として追加したことだ。 KDDIは、新たなサテライトグロース戦略のコアとなる事業に、5G通信だけでなく「データドリブンの実践」と「生成AIの社会実装」を新たに追加した。AIが5G通信に並ぶ重要な事業と位置付けられた。 KDDIは、AI事業強化のため生成AIの基盤整備に注力する。既に同社は生成AIベンチャーのELYZAを子会社化するなど、大規模言語モデル(LLM)の開発力強化を図っている。 さらに、経済産業省からの助成金を活用し、約1000億円規模の投資で大規模な計算基盤を整備することも明らかにしてしている。
佐野正弘