熊川哲也 K-BALLET TOKYO Winter 2024『くるみ割り人形』より 写真提供：K-BALLET TOKYO

2024年も数々の舞台で多くの観客を魅了したKバレエ トウキョウが、年末恒例の『くるみ割り人形』を上演、11月23日、東京・Bunkamuraオーチャードホールにて初日の幕を開けた。これから年末年始にかけて、世界各地であまたのヴァージョンが上演される古典の名作だが、熊川哲也芸術監督の振付・演出による本作は2005年に初演、怪奇小説の名手、E.T.A.ホフマンの原作のエッセンスを巧みに活かした、大人にとっても見応えある舞台づくりで人気を得ている。長く上演を重ね、世代を超えて踊り継ぎ、深化を続けてきたプロダクション。クリスマスシーズンの本格スタートを告げるような華やかで幻想的な舞台が、今年も、多くの人々に極上の夢のひと時をもたらす。 【全ての写真】熊川哲也 K-BALLET TOKYO Winter 2024『くるみ割り人形』より

純真無垢なクララとマジカルな演出が観客を夢中に

観客を物語の世界へと誘うのは、チャイコフスキーによるワクワクするような序曲。そこでは、人形の国のマリー姫が、ねずみの王様の呪いでねずみの姿にされる少し不気味なシーンが展開、熊川版独特のこのプロローグで、マリー姫と人形の国を救うための冒険譚が始まる。ヒロインを救うのは、少女クララだ。バレエの舞台で多く見られる『くるみ割り人形』の物語より一歩踏み込んだストーリー展開と、原作の世界観に通じる神秘的で妖しげな雰囲気も散りばめて、観客をぐいぐいと惹きつける。 第1幕、シュタールバウム家の広間が、まるで巨大な絵本から飛び出してくるように出現するさまに、息を呑む。クリスマス・パーティーでは子供たちも大人たちもめいっぱい着飾って、実に賑やか。この日クララを演じたのは、新鋭の梅木那央。凛とした顔立ちが印象的なダンサーだが、パーティーの最中に一人だけ天使が見えたり、人形の国のピンチを物語る人形劇に涙したりと、純粋無垢で優しい少女をキラキラとした表情で演じ、観客の心を掴む。彼女に人形劇を見せ、くるみ割り人形をプレゼントするのは、人形の国から遣わされたドロッセルマイヤー。マリー姫を救うために、世界一硬いクラカトゥクくるみを割ることができるのはクララだと確信しての行動だ。堀内將平は、時間と空間を操るという不思議な人物をミステリアスに、また包容力たっぷりに演じ、物語を引っ張ってゆく。 クララたちが魔法で小さくなるのにあわせて、広間のクリスマスツリーがぐんぐん大きくなっていく仕掛けは、バレエ『くるみ割り人形』の定番。が、熊川版でのツリーの巨大化ぶりは桁違いで有名、私たちもクララたちと一緒に小さくなったかと思わせるマジカルな演出に、客席から拍手が沸き起こる。想像力を刺激する、時計のモチーフにも注目を。 くるみ割り人形率いる兵隊たちとねずみの王様の戦争では、いよいよくるみ割り人形が大活躍。マリー姫の婚約者の近衛兵隊長だが、やはりねずみの王様の呪いでくるみ割り人形の姿に。エレガントなシルバーのヘアがトレードマーク、この日は栗山廉が、持ち前の爽やかな容姿と丁寧な踊りで、クララを人形の国へと誘った。栗山は別の日程ではドロッセルマイヤー役にも配され、大活躍だ。