なぜロシアの侵略戦争を止められないのか…存在感をほとんど感じない「国際法」の本当の存在意義
■現在の国際社会は「アナーキー」の状況にある なぜ、国際社会において、法やルールは国内社会において発揮しているほどの効力を持ちえないのか。それは国際社会が、中央政府を欠いた、国際政治学の専門用語で「アナーキー」と呼ばれる状況にあるからだ。この状況の下では、力の強い者がその気になれば、特に弱い者に対しては、実はかなりの程度まで勝手なことができてしまう。 国内社会では、いかに力の強い個人や集団でも、法やルールに違反すればただでは済まない。政府やその機関である警察、裁判所、さらには場合によっては軍隊などが、法に基づいてそうした者を取り締まり、あるいは罰してくれるからだ。たとえば暴力団が腕力を不当に用いて威圧してきた場合、多くの場合、市民は自力でその圧力に対抗することはできないだろう。だが、市民は、警察や裁判所に駆け込んで助けを求めることができる。 しかし、国際社会にはそうした存在がない。そのため、国際法には強制力が乏しく、力によるルール違反がまかり通ってしまいやすい。今回のロシアのウクライナ侵略は、この国際社会の根本的現実が、21世紀の今日でも基本的には変わっていないことを白日の下にさらした出来事だった。国際法の要ともいうべき国連憲章は、すべての加盟国が他国の主権と領土の一体性を侵害することを禁じている。にもかかわらず、国連安全保障理事会(※1)の常任理事国たるロシアによるあからさまな憲章違反に対し、国際法はほとんど何も手を打てていないのだ。 ルール違反に対する国際法の無力さを示す事例はほかにも枚挙にいとまがない。中国が尖閣諸島周辺や南シナ海でとっている行動には力による現状変更の試みと言わざるをえないものが多いが、国際法ではそうした行動を止めることはできていない。北朝鮮による核兵器開発や弾道ミサイルの発射は国連安保理の決議に明確に違反するものだが、国際法は打つ手なしの状況だ。国連安保理では、ロシアや中国の反対により、違反に対する追加制裁や非難さえもできないことが多い。 また、現在ウクライナ戦争と並んで国際秩序を揺るがせているイスラエル・ハマス戦争も、国際法の限界をさらけ出している。当初はハマスのテロに対する正当な対応として始まったイスラエルのガザへの攻撃が行きすぎたものとなり、ハマスと無関係の多くの民間人に犠牲を出すなど国際人道法の尊重が不十分なものとなっていることは否定し難い。だが、国際法は事態の収拾への役割をほとんど果たせていない。