「103万円の壁」引き上げで消費喚起も…「供給力強化が必要」と専門家 7~9月GDP
内閣府が15日発表した7~9月期の実質国内総生産(GDP)で、個人消費の伸びが加速した。ただ、定額減税の実施など一時的な要因が大きく、今後は再び低調になる恐れがある。個人消費が力強さを取り戻すには、賃上げの定着が最も重要だが、それまでの間は家計支援策でしのぐ必要がある。与党と国民民主党による「年収103万円の壁」の見直しに向けた協議の行方も注目される。 【図で解説】複数の「年収の壁」と国民民主党の主張 7~9月は所得環境改善の動きが目立った。賃上げの広がりやボーナス支給に加え、6月から始まった1人当たり4万円の定額減税、8月に再開した電気・ガス料金の抑制など政策による押し上げが効いた。 それでも物価変動を考慮した実質賃金は8~9月とマイナスで、家計はまだ厳しい状況が続く。 10月の景気ウオッチャー調査でも、街角の景気実感を示す現状判断指数は2カ月連続で悪化。「コメやさまざまな食品が値上がりする中、客が購入数や来店回数を減らし生活防衛している」(九州のスーパー)などの声が上がる。 定額減税の効果もすでに消えつつある。円相場が15日に一時、1ドル=156円台後半に下落するなど、円安の進行も物価の先高観に拍車をかける。 「わが国経済は成長型経済に移行する重大な局面にある」。赤沢亮正経済再生担当相は15日の閣議後記者会見で強調した。 近く策定する総合経済対策で、政府は「物価高の克服」を柱の一つに据える。住民税非課税世帯向けの給付や電気・ガス料金の補助の延長を盛り込む方向だ。 だが今、世間がそれ以上に関心を寄せるのは、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の引き上げだ。国民民主の主張通り、非課税枠を恒久的に178万円に引き上げた場合、政府は国・地方の税収が毎年約7兆~8兆円減ると試算する。 ただ、空前の人手不足に直面する日本がこれだけの規模の減税を行って消費を喚起しても、輸入が増えるだけでGDPに反映されない可能性がある。 みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「減税の恩恵を満額で受け取るには、供給能力の強化との両輪で取り組む必要がある」と話している。(米沢文)