「紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)」は大彗星にならないという予測が発表
■紫金山・ATLAS彗星の核は分裂が始まっている?
2024年7月8日、ジェット推進研究所のズデニェク・セカニナ氏は、紫金山・ATLAS彗星に関するあるプレプリントをサーバー「arXiv」に投稿しました。プレプリントは科学誌に正式に掲載される前の論文であり、第三者による内容の妥当性のチェックを受ける前の段階です。このため、一般的にプレプリントは正式な研究成果とはみなされず、その内容はある程度割り引いて評価されます。 しかし、今回セカニナ氏が投稿したプレプリントには、天文学者を初めとする天文コミュニティに属する多くの人々が反応しています。その理由は、紫金山・ATLAS彗星が明るい大彗星とはならず、太陽に接近するはるか手前で彗星核が分裂する「避けられない終末(Inevitable Endgame)」を迎えるとする悲観的な内容であったためです。 1936年生まれのセカニナ氏は、1994年に木星に衝突した「シューメーカー・レヴィ第9彗星」や、彗星の空中爆発ではないかと言われている1908年のツングースカ大爆発の研究、彗星探査機である欧州宇宙機関(ESA)の「ジオット(Giotto)」やNASAの「スターダスト(Stardust)」のデータ評価など、多くの彗星に関わる研究で名前を残しています。そんな彗星研究の第一人者であるセカニナ氏が、大彗星になると言われた紫金山・ATLAS彗星の悲観的な予想を発表したことで、プレプリントであっても大きな反響を呼んだと言えます。 セカニナ氏が注目したのは、紫金山・ATLAS彗星の直近の明るさの変化です。イグナシオ・フェリン氏(Ignacio Ferrin)の観測結果に基づくと、紫金山・ATLAS彗星は太陽に最接近する約160日前から予想通りの明るさの変化を示していません。セカニナ氏は、その原因を短期間の観測記録から調査できると考えて、2024年1月21日から6月13日(太陽に最接近する250~106日前)にかけての明るさの変化を分析しました。