あの日の出会い 長く猫と暮らしてきた老夫婦にとって最後で最愛の猫「ラム」
甘えん坊のラムと向き合う日々
「ラム」と名付けられた子猫は、敏晴さんと節子さん夫妻のもとで大きな病気をすることもなく元気に過ごし、シニア猫になった。 家に来て最初の数年間は先住猫のレオンがいた。レオンが亡くなると、夫妻とラムの3人暮らしになった。 ラムは、歴代の猫のなかでもっとも甘えん坊だ。そして、よく鳴く。 朝は鳴いて夫妻を起こし、昼はおなかがすいた、遊んでと鳴き、未明にも鳴く。 長く多頭飼いをしていたときは、猫同士で遊んだり、けんかをしたりして社会を形成していた。今のラムには仲間がおらず、構ってくれる相手が夫妻だけなので、退屈なのだろう。 夫妻にとって、1匹の猫とこれだけ毎日、長い時間をともに過ごす経験ははじめてだった。ラムが来る前は2人も現役で仕事をしていた。家には常に複数の猫がいてにぎやかだったが、1匹1匹と向き合う時間はそれほど多くなかった。 向きあう時間が長ければ長いほど、愛しさは増す。猫トイレに自分の排泄物(はいせつぶつ)が残っていると用を足したがらないラムのため、敏晴さんは日々、いそいそとトイレ掃除を行う。 また以前は、キャットフード以外の食事は猫には与えなかった。だが今は、食の好みがうるさいラムのため、好物のマグロの赤身を買いに、節子さんは離れた街の商店街まで自転車を走らせる。 ラムは、2人にとっては目に入れても痛くない孫のような存在だ。 「旅行に行く必要なんかないね、住み慣れたこの家で、ラムちゃんと3人過ごす時間が幸せだね」と、敏晴さんと節子さんはいつも話している。