ラピダス支援を念頭に政府は10兆円の半導体・AI支援を決定:安易な支援がむしろ事業失敗のリスクを高め、国民負担増とならないよう慎重な対応が求められる
政府支援にモラルハザードのリスク
政府がラピダス支援を念頭に、複数年にわたる「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を打ち出した背景には、政府の支援が直ぐに打ち切られるリスクを恐れて、民間の投資などが控えられる可能性があるとの考えがあり、先行きの予見可能性を高める目的で複数年の枠組みにしたと政府は説明している。 確かに、政府が一定期間、しっかりと支援を約束するもとで、民間は安心してラピダスへの融資や出資、関連する投資などを出すことができるだろう。しかしそうした安心感は、モラルハザードのリスクを高めることにもなるはずだ。 公的支援によって、ラピダスが、自らの力で成功を勝ち取るとの意欲が低下すれば、それは事業の失敗のリスクを高めてしまうのではないか。また、銀行や関係する企業からの監視の目も緩んでしまうだろう。 過去の国主導での半導体復活の試み、いわゆる日の丸半導体構想はうまくいかなかった。1999年に、NECや日立製作所などの半導体部門が合流し「エルピーダメモリ」が生まれた。同社は、公的資金活用による300億円の出資を受けたが、2012年に経営破綻している。失敗の理由の一つに、民間企業の集合体であったため、いわゆる「船頭多くして船山に上る」の例えのように、迅速な意思決定ができない一方、責任の所在があいまいになってしまった面があった、との指摘がある。 また、政府が関与することで、事業成功に向けた民間企業の責任意識が損なわれてしまったモラルハザードの側面もあったのかもしれない。こうした経験が今回の公的支援では十分に生かされたのだろうか。 IBMが関与する形での日本での先端半導体生産の試みには、米国内での半導体生産を強く求めるトランプ次期大統領が難色を示す可能性もあり、これも、ラピダスが抱える事業リスクの一つではないか。 先端半導体の国産化は、国全体の競争力に関わる。また、経済安全保障の観点からも重要であることは疑いがない。仮に台湾有事が生じ、台湾などからの半導体の調達に支障が生じれば、日本経済には甚大な被害が及ぶ。 それだからこそ政府は、ラピダスが自らの力で成功を勝ち取り、自走する可能性をより高める形での関与を検討すべきではなかったか。かつてのエルピーダの経験に照らしても、安直な支援は、むしろラピダスのビジネスが成功する可能性を低下させ、そうしたリスクを自ら手繰り寄せてしまう恐れがある。それは国民の負担を高めることになってしまうのである。 (参考資料) 「首相「幅広く合意形成」 第2次石破内閣発足――半導体・AI支援10兆円 経済対策、ラピダス念頭」、2024年11月12日、日本経済新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英