過去2回の「南北首脳会談」を振り返る 坂東太郎のよく分かる時事用語
韓国側で開かれる第3回首脳会談の行方は?
2回の南北首脳会談とは何だったのか。「南北共同宣言」で顕著なように戦争で引き裂かれた同胞の和解と平和的統一への道筋を探るのが元来の目的です。そのための首脳など人の往来であり経済協力であったりします。素朴な「そもそも共に住んでいた朝鮮民族同士だからまた一緒になれるといいね」という感情はあるでしょう。もっとも南北統一が具体的に実現するかというと休戦協定の問題もあるし、どのような形の統一かという具体的な点に関して考え方は両国で大きく隔たっているようです。 日本への影響で一番心配なのは、休戦に過ぎない朝鮮戦争の再開です。1950年から53年までは戦域が半島内に止まっていたので日本への戦火拡大に至らず、むしろ「国連軍」による軍需資材の買い付けや運輸・修繕に対する注文=特需景気で潤ったくらいですが、現在の北朝鮮は核兵器を保有(おそらく)するのみならず、易々と日本を射程に収めるミサイルも大量配備しているので、多大な犠牲者が生じる危険性が大です。
では27日に開かれる第3回南北首脳会談はどうなるでしょうか。今回は軍事境界線(38度線)上にある板門店で開かれます。会談場所は韓国側施設「平和の家」。韓国は文在寅大統領で北朝鮮は金正恩委員長。正恩氏は北の指導者として初めて韓国の地を踏むことになります。 前回07年の会談から今日まで北朝鮮は09年、13年、そして16年に2回と立て続けに核実験を行ってきました。その間、金正日総書記が11年末に死去、後を継いだ三男の正恩氏の時代になって加速した感があります。対する文大統領は盧武鉉政権の側近で、保守派の李明博・朴槿恵(パク・クネ)両大統領から進歩派(革新)へと政権交代させた人物です。南北首脳会談はいずれも進歩派でしたので、金正恩委員長も「やりやすい」と思っているかもしれません。とはいえ、文政権発足後に6度目の核実験をぶちかましているのであまり関係ないとの見方も。 過去2回と決定的に異なるのは、少なくとも韓国側が「朝鮮半島の非核化」つまり核開発問題を正面から取り上げる意思を明確に示している点です。もっとも北朝鮮が応じてくるかどうかは別問題。北朝鮮の核保有は体制を脅かすアメリカへの牽制で韓国は関係ない、あるいは交渉相手ではないと拒絶するかもしれません。北朝鮮は核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射の中止などを発表しており、「すでに伝えた以上でも以下でもない」とし進展しない場合もありましょう。 韓国側もその辺は織り込んでいてゴリゴリと徹底的な非核化を迫らなさそう。北朝鮮の「本命」が6月にも予定されている「米朝首脳会談」であるのは明白で、文大統領も5月に渡米して米韓首脳会談に臨む見通しであるのを考え合わせると、南北首脳会談では米朝会談の露払いに徹するつもりかもしれません。 南北会談本来の目的である将来の統一に向けての経済協力なども、過去2回ほどフリーハンドではありません。国連安保理決議や、立ち消え気味とはいえ6か国協議の決定もある中で単独での交渉は大きく制約されそうです。 むしろ第2回会談で「3者または4者」とあいまいにされた朝鮮半島終戦宣言および平和協定に道筋をつけようとするかも。金委員長はすでに中国と首脳会談をして関係修復に動き、米朝首脳会談を展望しています。念願が終戦宣言による体制保証であるのは明らか。中国にしても、米朝が頭越しに進めるとなれば戸惑いもありましょう。まあすべては「米朝首脳会談が行われれば」という仮定に基づく話に過ぎませんし、仮に開催されても決裂する公算もあるだけにまだまだ不透明です。
--------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など