私たちは何歳まで働くのか…日本でこれから「超高齢者」が急増すると起こる「最も大きな変化」
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… ベストセラー『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
前期高齢者は減少し、超高齢者が増える
経済に及ぼす影響という意味で大きな要因の一つは、人口そのものが減少していくことにある。そして、第2には人口減少に伴う高齢化による影響を指摘することができる。人口減少は生産や消費の減少要因になることから、経済規模に直接的な影響を与える。一方で、高齢者人口比率の上昇といった年齢の構成比の変化は、経済規模というよりも、経済の需要と供給のバランスに影響を与えると考えられる。 年齢構成も近年大きく変化してきている(図表1-3)。日本の人口動態においては団塊世代の影響が大きく、2000年時点で団塊世代は概ね50歳前後、2020年時点で70歳前後にあたっていた。団塊世代の年齢に応じて日本全体のピークの年齢層は変化しており、2040年の予想をみると、90歳前後に山が移行していることがわかる。その結果として、15歳から64歳の生産年齢人口は2020年の7508万人から2040年の6213万人へと、この20年間で1295万人減る。生産年齢人口の減少は過去においても進んでおり、2000年から2020年までの減少幅も1129万人と過去から継続して減り続けている。 高齢者人口の推移に目を転じると、高齢化率は2020年の28.6%から2040年に34.8%まで上昇し、2060年には37.9%にまで達する見込みとなる(図表1-4)。そして、高齢者人口の中身をみていくと、高齢者の中の内訳もまた変わっていく。 統計上は65歳を基準に高齢者というくくりで一口にまとめているが、老年医学の領域においては、たとえば65~74歳を前期高齢者、75~84歳を後期高齢者、85歳以上を超高齢者と分類している。また、日本老年学会・日本老年医学会では、平均寿命の延伸や高齢者の健康状態の良化などを背景に、65~74歳を准高齢者、75~89歳を高齢者、90歳以上を超高齢者と分類するよう提言を行っている。 85歳以上人口の比率をみると、2000年から2020年の間は1.8%から4.9%へと増加した。そして、2020年から2040年にかけては4.9%から8.9%へと引き続き増えていく。一方、65~74歳人口の比率は10.3%(2000年)から13.8%(2020年)へと増えたのち、2040年には15.1%と推移する。 高齢者の中でも年齢が比較的若い層と年老いた層では経済社会との関わり方は大きく異なる。 最も大きな変化は、当然、就労能力に関するものである。総務省「国勢調査」の2020年の結果をみると、60歳時点の労働力率は74.3%であるが、70歳時点では38.3%に、80歳時点では12.8%まで下がる。90歳時点では3.3%となる。高齢期に就労をするかどうかの判断は、自身が保有する資産や年金給付額の多寡のほか、労働をした場合に得られる賃金などに応じて決まるとみられる。 しかし、こうした意思決定メカニズムにかかわらず、そもそも働く能力や体力がなければ働くことはできない。60代半ばから70代までの高齢者については、無理のない範囲であれば働く能力がある人も多いが、80歳前後から超高齢者の区分に差し掛かっていく年齢においてはそもそも働ける人は少数派になる。政府がどれだけ就労を奨励したとしても、健康上働けない人を働かせることはできない。 消費構造も年齢によって大きく異なる。詳しくは後述するが、年齢が相対的に若い高齢者は医療や介護サービスの消費は比較的少ない。一方、年齢が高い層では医療・介護サービスの消費量は急速に増える。年齢を重ねるごとに人手を介したサービスへの需要が高まることで、労働市場や財・サービス市場の需給に多大な影響を与えることが予想される。 現在、日本経済は長期にわたる厳しい人口減少局面の入り口に立っている。いまは、ジェットコースターの頂上から少し下ったところで、その加速度の激しさに動揺している状態にあるとたとえることができる。人口増加局面から人口減少局面へ移行すると同時に、日本経済はこれまでに経験したことのないパラダイムの変化を経験することになる。近年、その兆候はいたるところに見えている。引き続き、人口減少経済への移行に付随して起きている経済の変化を概観していこう。 つづく「人が全然足りない…人口激減ニッポンの「人手不足」が引き起こす「深刻な影響」」では、日本経済がなぜ「こうなって」しまったのか、人材獲得競争が活発化する状況で企業はどうすればいいのか、個人はどう生きるのか、掘り下げていく。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)