ロッカー室に響いたベテランの声「折れたらダメだぞ」 9年ぶりVへの壁…イレブンに募る違和感【コラム】
今季で引退する青山は「あとは自分たちの力で乗り越えるしかない」
簡単には優勝できなかった中で、2013年と今季は特に酷似している。当時も残り2試合で、首位の横浜FMと3位広島との勝ち点差は5ポイントあった。土壇場から連勝した広島とは対照的に、横浜FMと2位だった浦和が連敗し、終わってみれば勝ち点1ポイント差で広島が奇跡を起こした。 今季の第36節も1時間早くキックオフされた一戦で、神戸が1点をリードしながら、後半終了間際のオウンゴールでヴェルディと引き分けた。差が5ポイントに広がる瀬戸際から、3ポイント差の2位に踏みとどまった状況に、青山は「最後にみんなと一緒に喜ぶイメージしかない」とポジティブに受け止めた。 「あとは自分たちの力で乗り越えるしかない。いまのままじゃなくて、いま以上に成長しないといけない。結局は最後の1試合でしょう。(加藤にも)別に何の言葉もかけないですよ。本人は気持ち的に難しいかもしれないけど、いつも十分にやってくれている。次に点を取ってくれれば何も問題はないし、そうなるように導いていきたい」 浦和戦後のロッカールームには、青山のこんな言葉が響きわたった。 「ここでもう一回踏ん張るぞ。ここで心が折れているようじゃダメだぞ」 短い時間で技術的には成長できない。求められるのは心の奮起。黒星を引きずるのではなく、補ってあまりあるプレーを見せればいい。2013年、湘南との第33節で決勝ゴールを決めて、最終節での大逆転劇につなげた青山が飛ばしたゲキは不思議な力を伴っていた。 加藤はこんな言葉とともに前を向いた。 「もう一度気を引き締めてやるしかない。もっと点を決めて、それで勝つ。それをしないと、このチームを勝たせる責任があると言う資格はないし、何よりも(セレッソ大阪から)ここに来た意味がない」 代表ウイークと天皇杯決勝が続く関係で、ホームに北海道コンサドーレ札幌を迎える次節は12月1日まで空いた。敵地に乗り込む同8日のガンバ大阪との最終節で再びドラマを起こすために、広島は十分すぎるほどの時間を、青山を中心に自信を回復させ、プレッシャーを力に変えるための心のメンテナンスに充てていく。 [著者プロフィール] 藤江直人(ふじえ・なおと)/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
(藤江直人 / Fujie Naoto)