湯川れい子×林真理子「子育てや介護も終わって60代から新しいことを始めた。今できないことも〈夢貯金〉としてあきらめなかった」
◆60歳を過ぎると自由が広がる 湯川 私は今87歳ですが、60を過ぎてからが一番自由だった。長年の身体の不調がC型肝炎のせいだと判明したのが57歳。子どもも手が離れ、介護や看取りも一通り過ぎ……、60歳で離婚。70歳で肝炎も完治したので、余計のびのびと、いろいろなことができるようになりましたね。 林 私も両親を看取り、娘も就職したから、理事長という「新しいこと」を始められた。60代はまだまだ体力もあるから、いい年齢ですよね。 湯川 私は子育てや病気などで行動できない時期、この先やってみたいことをあきらめるのではなく、「夢貯金」と名づけて紙に書いて壁に貼っておいたの。「オーロラを見に行きたい」とか「アマゾンに行きたい」とか。その夢貯金を、60歳以降、ひとつずつ実現してきました。 林 「ここでお金を使っちゃったら老後資金、大丈夫かな」とか思いませんでした? 湯川 いやぁ、お金も必要でしょう。息子には申し訳ないけど自宅を抵当にして、リバースモーゲージという形でお金を借りられるようにしました。
林 そういえばある人から「50歳を過ぎたら、仕事の3割はお金をもらえないことをやりなさい」と言われて、なるほどなぁと思ったことがあります。自分のためだけではなく、他人のため、「利他」も大事にしたい。それが大人として成熟することかなと思い、「エンジン01文化戦略会議」の活動も始めたんです。 おかげで湯川さんとも出会えたし、東日本大震災後に始めたチャリティコンサート「全音楽界による音楽会」でも、一緒に呼びかけ人をさせていただいて。今年の3月11日、10回目を無事開催できて本当によかった。 湯川 私は反核や平和活動、動物愛護などいろいろなNPO活動にかかわってきたけれど、とくに「人のため」と意識しているわけではないのよね。やりたい、必要だと考えたら迷わずやって、それが結果的に人のためになることもあるわけで。 林 ボランティア活動も含めていろいろな人とかかわると、人としてのキャパシティが広がっていく気がします。出会った方々から教えられることも多いし、あわよくば自然に教養も身につくのではないか、と──。 湯川 社会活動を通して、世代を超えていいお友達が増えるのは確か。「将来、湯川さんがおむつをするようになったら取り替える役目をします」などと言ってくれる人もいます。(笑) (構成=篠藤ゆり、撮影=宮崎貢司)
林真理子,湯川れい子