純内燃エンジンのリアル・スポーツカー、ロータス・エミーラと918馬力のウルトラSUV、エレトレ どちらの方がドライバーズ・カーなのか?
ロータスの未来を占う2台を同時試乗!
1995年登場のエリーゼにはじまるここ30年のロータス・ロードカーの流れを汲み、最後の内燃エンジン車とされるエミーラのAMG製パワートレイン搭載モデルと完全にゼロベースから構築されたフルサイズSUVのエレトレの最上位モデル。エリーゼを所有するエンジン編集部のウエダは2台を見て、乗って、何を思ったのか。 【写真34枚】まさに最後の純内燃エンジンのリアル・スポーツカー、エミーラととんでもないパワーのスーパーSUV、エレトレ 見た目もデザインテイストもこんなに違ってた! ◆“フォー・ザ・ドライバーズ” このドライバーズ・カーを主題とする記事を企画するにあたり、僕は「絶対ロータスは外せないな」と思っていた。なぜならジーリー傘下で拡大を続けるロータスは、まさに“フォー・ザ・ドライバーズ”という標語を掲げていたからである。 幸いにエミーラとエレトレというロータス最新の2台を同時に借り出せた。しかもエミーラは試乗を前々から熱望していた最新の2リッター4気筒AMG製ターボ搭載モデル。エレトレは最上位グレードの“R”である。 結論からいこう。この頁では“フツーの乗用車以上、スポーツカー未満”という特集サブタイトルを忘れて欲しい。誰が何といおうとエミーラはスポーツカー未満ではなく、リアルなスポーツカーの、しかもかなり上位にランクインしている。エレトレもフツーのクルマ以上というだけでなく、もはや既存のクルマの概念に留まらない。そしてこの2台はドライバーズ・カーには違いないのだけれど、2台に乗ってもたらされた感情は、実は大いに異なるものだったのである。 ◆AMG搭載エミーラ前史 2008年7月の英バーミンガム・ショーでエミーラの前身であるエヴォーラが登場した時から、僕はトヨタ製のV6だけでなく、4気筒エンジンの搭載を熱望していた。そして開発陣が日本へ来る度に可能性を訴えた。より軽く、しなやかな足を持ち、手頃な価格となるエヴォーラを登場させない手はないと説得した。さらには+2の小さな後席空間を活かしつつ、前席を中央1席にした1+2の3座レイアウトのアイデアも伝えた。そうすればあの狭い後席でも足が伸ばせる。けれど初代エリーゼの産みの親で、その開発チームを再度招集してエヴォーラも造ったロータスのロジャー・ベッカーも、息子で開発ドライバーのマシューも、返す言葉は渋かった。財政難ゆえに複数エンジンの展開はできず、1+2の座席配置などクラッシュテストから何から完全にやり直す必要があり、現実的ではない。マシューは残念そうにそう言ったのだった。 ◆まさに鬼に金棒 だがジーリー傘下に入り潤沢な予算が与えられ、さらにはロータス最後の内燃エンジン車として位置づけられたエミーラは違った。旧いトヨタの4気筒どころか、最新の365psと43.8kgmを発揮するAMGエンジンという強心臓を手に入れたのだ。しかも組み合わせるのは、8段デュアルクラッチ式自動MT。現時点で望みうる最高のペアである。 地下駐車場で対面した灰色のエミーラは、リア・ガラス越しに見えるカバーが樹脂製になっているくらいで、以前乗った青いトヨタ・エンジン搭載車と違いはほとんどなかった。タイヤ・サイズも共通。車両重量はV6と6段MTの組み合わせより30kg軽い1470kgで、前重量バランスは37.3: 62 .7から38.8:61.2へとわずかに改善している。 走らせてみれば、何よりもまず、新しいエミーラはしなやかだ。これがAMGエンジン搭載に起因するものか、生産台数が増え熟成が進んだからかは断定はできないが、以前乗ったトヨタV6搭載車とは別物だった。首都高速道路のきつい目地段差やうねりを余裕でいなす。回頭性も一枚上手だ。狙ったところへまるで吸い込まれるようにすっと鼻先が入っていく。これだよこれ。やっぱりロータスはこうでなくちゃ。 ただしステアリングの感触はトヨタV6搭載車と同じく、ぐっと重くソリッドで、繊細かつ軽やかだった初期エヴォーラのようなものとは異なる。ここはベッカー親子からポジションを継いだ今の開発ドライバー、ギャビン・カーショウの味つけのままだ。クローズド・コース主体のロータス・スポーツ部門が出自の、彼流のノウハウなのだろう。 AMG由来のパワートレインの仕立ても素晴らしい。特にスポーツ・モードにおけるエンジンのつきがすごくいい上に、変速は瞬時かつまさに望むまま。排気音は低めでウェイスト・ゲートの作動音も控えめだけれど、しっかり心躍るものになっている。ロータス熟成のアルミバスタブ・シャシーに、パワフルかつ最新のAMG。鬼に金棒とはまさにこのことだ。右ハンドルの仕立てやパドルやシフト・レバーの反応のにぶさなどインターフェイスに隙はあるが、それ以外エミーラのAMGエンジン搭載車は、見事なまでにドライバーズ・カーとして調律されていた。ケイマン/ボクスターがBEV化し、A110も終焉を迎えようとしている今、本当に貴重な純内燃エンジンのリアル・スポーツカーである。 ◆この30年が特殊だった ロータスといえば軽量スポーツカー、という思いが強い人にとって、エレトレの登場は大事件だ。全長5m超? 車重2.6トン? ありえないことばかりと、悲しみに近い思いを抱いたはずだ。でも冷静に歴史を俯瞰すると、実は1995年のエリーゼの登場から今までの約30年間だけが、ロータスにとっては特殊な時代だった、とも考えられる。 産みの親のロジャー・ベッカーによれば、エリーゼはいわば初代ヨーロッパのリ・クリエイション・モデルであり、その名も継がせたかったそうだ。もし創始者チャプマンが存命だったら、先進的な彼が、こうした過去を振り返るようなモデルを造る可能性は限りなく低かったはずだ。そしてそれに続くエキシージ、エヴォーラのような軽量スポーツカーたちは、会社の経営状態の悪化によって、延命に延命されたからこそ運良く生き延びてきた。 エミーラは素晴らしいドライバーズ・カーになってはいるが、エリーゼの遺産を延々引きずってもいる。そこには抜本的な刷新は少ない。ロータス・セブンに対するケータハム・セブンとまでいうとちょっと極端だけれど、あくまでもオールドスクールなスポーツカーなのである。 そんなエミーラに比べると、特にエンジニアリング面においてエレトレは見事なまでに隙がない。ほぼ完璧なインターフェイスなど、ドライバーズ・カーとして見た場合、実は完全にゼロから構築されたエレトレのほうが上回る部分も多々ある。 さらに動力性能に関しては、もはや比較にならないだろう。試乗車のエレトレRであれば、前後アクスルの2モーターにより、システム上918psと100.4kgmをマークするが、その途方もない力を先進アルミ合金とスチールの混合シャシーは、なんなく受け止めている。他グレードと違いエレトレRだけは摩擦板クラッチを採用した2段ATを備えており、高速域でも加速ののびがまったく鈍らない。なお0-100km/h加速はエミーラAMGの4.4秒に対し、エレトレRは3秒を切る。料金所からのスタートダッシュなど、重量を一切感じさせない加速は、まさに異次元感覚だった。 加えて挙動はリアルタイム解析され、4輪の駆動配分と車高は自動調整する。状況に応じてスタビライザーを切り離したり、ブレーキによるベクタリングも行う。後輪操舵だってする。そうしたもろもろの最新の技術がみごとなまでに整然と統べられているからこそ、恐ろしく重く大きなSUVにもかかわらず、ロータスの名にふさわしい身のこなしを得ている。しかもプログラムを切り替えれば、まるでドイツ製のハイエンド・サルーンもかくやの静粛で上質な世界を見せる術も持っているのだ。 エレトレに旧来のロータスらしさを感じるのは、ステアリングの感触くらいだろうか。同じカーショウの手によるもののはずなのに、こちらはまとわりつくような重さをほぼ感じさせず、路面の様子を丁寧に伝えてくれる。油圧を用いない純電気式で、ここまでフィールが心地よいと思ったのは、はじめてである。 車体の大きさや重さを本当に意識させないためには、こうしたドライバーの操作に対する反応こそ重要。電子制御の緻密な積み重ねによるものとは思えないくらい、自然なものへと仕上がっている。 冷静に観察すればエミーラだって、エリーゼなどに比べればドライバーに伝える反応は本当に自然なものではなく、造られたものになっているのが分かる。けれどエレトレはレベルが違う。違和感の消しっぷりは、もはやそら恐ろしいほどだ。 エレトレの驚異的な力をはじめとするこうした新たな世界は、常に冷静さを保たないと探りきれないのでは、という思いが試乗中ずっと払拭できなかった。それほど奥が深く、見極められない。分かりやすく純粋で、わくわく心が躍るエミーラの楽しさとは、見事に対照的だった。 どちらもドライバーズ・カーであることは間違いない、とは思う。でも両者はもはや、次元が違うといっても過言ではなかったのである。 文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=神村 聖 (ENGINE2024年12月号)
ENGINE編集部
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