東海林さだお85歳「脳梗塞の入院後、ビールが飲めなくなった。食生活が変わり食事量は半分になったけれど、食への好奇心は変らずに」
サラリーマンの日常を軽妙に描いた漫画や、独特な視点で食を掘り下げたエッセイを半世紀以上にわたり発表し続けている東海林さだおさん、85歳。複数の連載を抱え多忙を極めるなか、2023年6月、脳梗塞を患った。入院をきっかけに「食生活の大変革」があったという(構成:山田真理 撮影:大河内 禎) 【写真】現在までで687冊にもなるという、スケッチブックのアイデアメモ帳 * * * * * * * ◆入院を境に、大好きなビールが…… 脳梗塞は再発しやすい病気だから、塩分やお酒は控えめにとお医者さんには言われています。本当はそうしなきゃいけないし、退院してしばらくは気にしていたのだけど、だんだん続かなくなってきてね。 「血液サラサラの薬も飲んでいるから大丈夫かな」と考えて、最近はあまり細かいことは気にせず食べちゃってます。食べる量が入院前の半分近くに減ったから、その分、摂取する塩分量も少なくなったんじゃないか――って、これは言い訳ですけどね。 自宅では、妻が5品くらい用意してくれる料理から少しずつつまむようにし、コンビニで買うお惣菜は小さなパックを選んでいます。 コンビニのお惣菜といえば、以前は「ビールに合う」ことが絶対の条件だったんですよ。お酒のつまみになるような、少し脂っこくて味が濃いもの。それはほとんど食べなくなった。
なぜなら――これが本当にショックなのだけれど――、今回の入院を境に、ビールが飲めなくなってしまったの。かつては「こんな美味しいものはほかにない」と思うほど好きだったのに、今は魅力を感じない。 薬のせいなのか体質が変わったのか、飲んでも美味しくないし、すぐに酔っぱらってしまう。今は350mL缶を一本飲むのが精一杯です。 本当は運動もしたほうがいいのでしょうが、以前から腰が痛いのに加え、入院中に筋肉が落ちてしまって歩くのがつらい。歩行を助けるためにリハビリ用の杖を買ったものの、いかにも爺さんみたいで格好悪くて。 人に見られるのも嫌だし、外へ行くのがすっかり億劫になっちゃった。仕事終わりに飲みに行くこともまったくなくなって、外食が大幅に減った。これも入院をきっかけとした食生活の大変革といえるでしょう。 脳梗塞になった時も、「老人みたいな病気で嫌だな」と思ったものだけど、考えてみれば僕はこの10月で86歳。立派な爺さんであるという自覚が足りないのかも。(笑) 入院中に食べた質素な食事は非常につらかった一方で、わかったこともあります。僕らは普段、いろんなものを食べ過ぎているのかな、ってこと。栄養やら彩りやら、多いほうがいいと信じ込んでいたけど、あれくらいの食事でも人間は生きられる(笑)。 医療や栄養のプロが「これでいい」と言うのだから、十分なんですよね。特にこの年齢になったら、そんなに頑張って何種類も食べなくていいんだなと、達観できるようになりました。
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