「サッカーができていることに感謝」 新天地マインツで再出発の佐野海舟
今夏にサッカーのドイツ1部リーグ、マインツへ移籍した佐野海舟(23)はレギュラーとして新シーズンを歩み始めた。現地からの報道によると、佐野は「ここで、このチームでやるしかない。サッカーができていることに感謝して、1日1日を過ごしていくことが大事」と語っている。 佐野を巡る報道が駆け巡ったのは7月17日だった。それによれば、佐野は7月14日、東京都内のホテルで30代女性に性的暴行をしたとして、不同意性交容疑で知人の20代の男2人とともに逮捕された。昨年11月に日本代表デビューした23歳のMFはJ1鹿島から今夏にドイツの中堅クラブであるマインツへ移籍が決まったばかりだった。 日本での報道を受け、マインツは公式Xで「驚いた。情報が不足しており、評価やコメントはできない。できるだけ迅速かつ包括的に解明するよう努める」と記し、前所属クラブのJ1鹿島も「クラブとしても大変憂慮している。事案の性質上、詳細について把握できないため、今後の状況を注視していく」との声明を発表した。 7月29日に釈放された同選手は所属事務所を通して「この度は、私の行動によって被害者の方に多大なご迷惑をかけてしまったことを心よりおわび申し上げます。自分の行動の結果を真摯(しんし)に受け止め、信頼回復に努めていこうと考えております」などとコメント。その後、8月8日に不起訴処分とされた。 佐野の新天地はドイツ中西部のフランクフルトに近いマインツが本拠地のクラブだ。1905年創設で、ユルゲン・クロップやトーマス・トゥヘルといった指揮官が若き日に采配を振ったチームとしても知られる。2004/05年シーズンにクロップ監督の下でクラブ誕生100年目に初めてブンデスリーガ1部に昇格。一度2部降格を味わったが、2009/10年シーズンから再び1部で戦っている。かつては元日本代表の岡崎慎司や武藤嘉紀もプレーした。主要タイトルはないが、2016/17年シーズンには欧州リーグに出場したこともある中堅クラブで、昨季は降格圏と勝ち点2差の13位で1部残留を果たしている。 岡山県出身の佐野は鳥取・米子北高校から2019年に当時J2だった町田ゼルビア入り。対人プレーの強さと豊富な運動量を武器に頭角を現し、2023年にJ1鹿島へステップアップした。同年11月には追加招集で日本代表に初めて選ばれ、デビュー。年明けのアジア・カップにも引き続き、選ばれていた。 本来であれば7月下旬にプレシーズンのキャンプに参加するはずだったが、佐野のチーム合流はずれ込んだ。そして、そこから2週間あまりで最初の公式戦を迎えた。準備不足が懸念されたが、8月16日のドイツ・カップ1回戦で3部のヴィースバーデンとの一戦に佐野は中盤で先発。延長までもつれ込んだ一戦で120分間プレーし、3―1の勝利に貢献した。その日のプレーはチームメートや地元メディアにもおおむね好評だった。 フランクフルター・アルゲマイネ紙(電子版)は、新加入の背番号6(この番号からもクラブの佐野への期待はうかがえる)のパフォーマンスを高評価し「チームは新たなエンジンを手に入れた」と伝えた。当初は後半途中交代させる選択肢もあったようだが、チームメートのFWブルカルトは「彼はどんどん速く、どんどん走るようになった」と落ちることのない運動量に舌を巻いた。ヘンリクセン監督も「彼はマシーンだ」と疲れを知らない無尽蔵のスタミナを高評価。上々の印象を周囲に与えたといってよかった。 このような一件のあったサッカー選手を地元はどのように受け止めたのだろうか。佐野と同じように今季レーバークーゼンからマインツへ移籍したドイツ代表経験を持つMFアミリは、シュポルト・ビルトのインタビューで次のように次のように語っているので紹介したい。 -不同意性交の疑いで日本で16日間拘留されていた。チームは彼をどのように迎え入れたのか? 「他の新加入選手と同じだ。もし捜査当局が彼を有罪と判断していたら、彼は今我々と一緒にいなかっただろう。海舟はうまくチームにとけ込んだし、とても感じがいいし、いい選手だ。今のところ良い印象を受けている」 ピッチ外のことへの判断は避け、あくまで互いにプロのサッカー選手として接しているという姿勢だろうか。 8月24日にはリーグ開幕戦のウニオン・ベルリン戦に先発し、後半40分までプレー。チームはホームで1―1で引き分けた。ドイツでは専門誌キッカーが試合ごとに採点(1が最高で6が最低の原則6段階評価)しており、佐野は3・5と及第点が与えられた。同31日のシュツットガルト戦は初のフル出場。中盤の底として出足の鋭い守備を見せ、1対1の勝負が重視されるドイツのサッカーにも臆することなく順応し始めている。公式戦3試合を終えた佐野は「ブンデスリーガのテンポはとても速い。自分の持ち味を発揮するためには、それに慣れていく必要がある。個人的に引き続き、改善していきたい」。何より、冒頭の言葉にあるようにサッカーのできる環境への感謝を忘れず、自らの課題を口にした。
VictorySportsNews編集部