「テロリストとYouTuberは戦略が同じ」…現代の戦争が「これまでと全然違う」と言える「驚くべき理由」
「新しい戦争」とゼレンスキーの戦略
この新しい戦争のかたちが証明するように、今日の人類社会はインターネット上で、Facebookの、Instagramの、X(Twitter)のプラットフォーム上で展開されているユーザー間の情報発信による相互評価の連鎖と、その結果としての世論形成が支配的な力をもっている。 それはいわば、すべてのプレイヤーが参加する相互評価のゲームにほかならない。今日の情報環境において、あらゆるユーザーは受信者であると同時に潜在的な発信者だ。 そしてこのときユーザーには自己の発信に他のユーザーから反応を得るインセンティブが多かれ少なかれ発生する。つまり誰もが他のユーザーからのリアクションを潜在的に期待している。 たとえそれが名もなき1アカウントであったとしても、いや、名もなき1アカウントだからこそ自分の投稿が不特定多数に評価されることは、一時的にでも強い快楽を与える。そして各プラットフォームは人間が情報発信によるインスタントな承認の中毒に陥っていることを経験的に知っている。 そして「Like」や「Repost」というかたちでその承認を可視化することで、より人びとをその快楽の虜にした。そして今日では人類が覚えた新しい麻薬の効果を用いて政治的、経済的な「動員」をおこなうことこそをプロバガンダと、あるいは広報と呼ぶのだ。 とくに民主主義という制度は、この相互評価のゲームが世論に対して強い影響力をもつようになったことで迷走をはじめている。2016年のブレグジットしかり、ドナルド・トランプの台頭しかり─。 したがって、このプラットフォーム上の相互評価のゲームで優位に立つことが、西側の民主主義国に暮らす人びとの心を摑み、その世論を操作することが、これらの国家たちからの足並みをそろえた支援を獲得するためにもっとも有効であることをゼレンスキーは理解している。 だからこそ彼はインターネットを通じて、戦場から国境を越えて「直接」世界中の市民に問いかけつづけているのだ。そしてその言葉がより新しい、次の戦争の出現によって人びとに届かなくなると同時に彼の戦略もまた破綻しつつあるのだ。 さらに連載記事<インターネットが実現した「多様性」を人々がこぞって捨て去ろうとしている「悲しき現実」>では、現代の情報社会が直面している問題点をわかりやすく解説しています。ぜひご覧ください。
宇野 常寛(評論家)