「テロリストとYouTuberは戦略が同じ」…現代の戦争が「これまでと全然違う」と言える「驚くべき理由」
SNS上での承認を求め、タイムラインに流れる「空気」を読み、不確かな情報に踊らされて対立や分断を深めていくーー。私たちはもう、SNS上の「相互承認ゲーム」から逃れられないのでしょうか。 【写真】「新しい戦争」が明らかにした、テロリストとYouTuberの意外な共通点 評論家の宇野常寛氏が、混迷を深める情報社会の問題点を分析し、「プラットフォーム資本主義と人間の関係」を問い直すところから「新しい社会像」を考えます。 ※本記事は、12月11日発売の宇野常寛『庭の話』から抜粋・編集したものです。
21世紀のテロリストたちの「狙い」
戦線から遠のくと、楽観主義が現実にとって代わる。そして最高意思決定の段階では現実なるものはしばしば存在しない。戦争に負けているときは特にそうだ。 これは東京におけるテロをシミュレーションしたある映画のセリフの引用だが、今日においてこの「戦線」という概念は、少なくとも以前のようには存在しえなくなっている。 20世紀が後方の生産力が前線の戦力を支える総力戦の時代なら、21世紀はテロの時代だ。 そこがもはやニューヨークやパリの中心街であったとしても、いや、そうであるからこそ戦場に選ばれることを、すでに人類は経験的に知っている。 もはや誰にも「戦線から遠のく」ことはできない。なぜならばすでに戦線という概念が解体されつつあるからだ。 そもそもテロリズムとは、相対的に小規模な破壊と殺戮で最大限のプロパガンダをおこなうことを目的とした行為だ。そのために、敵国の中心部や重要な施設を象徴的に破壊し、その場所で市民を殺害し、恐怖を与える。これによって敵国の人心を刺激し、統治権力を脅かす。 その敵国が民主的な制度にのっとっていればいるほど、その効果は高い。テロリストたちは敵国の人びとに破壊と殺戮を報道させることで、自分たちに注目を集め、メッセージを伝える。 比喩的に述べれば、彼らは自分たちのYouTubeのチャンネルの登録者数を増やすために、テロをおこなっているのだ(実際に、現代のテロリストたちの多くが、自分たちの団体のプロパガンダとメンバーの勧誘の手段として、YouTubeなどのプラットフォームを用いている)。 彼らの非合法な政治活動にとって情報発信は存在証明とほぼ同義であり、それによる新しいメンバーの獲得(動員)は活動の維持に直結している。そしてここではその情報発信の効果を最大化するものとしてテロが選ばれているのだ。距離を無効化したアプローチ(攻撃)をおこなうテロとはインターネット的な戦争の形態だ。 20世紀前半の総力戦、つまり2度の世界大戦のうち、とくに後者は放送(ラジオ)と映像(映画)というふたつの技術の産み出したものだと言われる。 放送と映像、ふたつの技術は国家による大衆の動員力を飛躍的に増大させ(その先鋭化した形態が、全体主義運動だった)、総力戦を可能にした。続く冷戦下の東西両陣営の相対的な安定を支えたのは、このふたつの技術の融合したテレビだった。 そしてその冷戦の終結の原因のひとつが、西側諸国の衛星放送の受信による東側諸国の市民の意識の変化であったことは記憶に新しい。人類にとって、戦争とは常に、情報技術によってその形態を決定されてきたのだ。 そして前線と後方の境界線を破壊したテロの時代を経て、今日の戦争をもっとも強い力で決定しているのがインターネット(SNSのプラットフォーム)上で展開されるプロパガンダとしての情報戦にほかならない。 今日のテロリストたちの「攻撃」が、なかばサイバースペース上の彼らの発信の影響力の増大を目的におこなわれていることはすでに指摘したとおりだが、その延長に今日の国家間の「戦争」も存在する。これがウクライナで顕在化した、新しい戦争のかたちなのだ。