「こんなに号泣してるやつに、よお道聞けたな」以来どんな小さなことでもメモすることを心がけるようになったのです【坂口涼太郎エッセイ】
日常にこそきらめきを見出す。俳優・坂口涼太郎さんが、日々のあれこれを綴るエッセイ連載です。今回のエッセイは「倍倍!〈前編〉」です。忘年会の季節ですね。「忘れる」と言えば思い出す、お涼さんの忘れられない思い出。 【写真】日常こそが舞台。自宅で「お涼」ルーティーンを撮り下ろし 忘年会とはその年にあった苦労や嫌なことを忘れ飛ばして、まっさらな気持ちで新たな一年を迎えようやないか! という意気込みの会らしいですが、果たして世界で何人の人が嫌なことをピンポイントでちゃんと忘れて、まっさらな気持ちにリニューアルできているのかと、人生で数は少ないけど忘年会を経験した者のひとりとして思うお涼です。 まあ、忘年会というのは名ばかりで、その内容のほとんどは1年間みんなよく頑張ったという労いと、お互いにありがとうを伝え合う寿ぎの会だよね。この時期になるとなんとなく「忘れる」ということについて思いを馳せるお涼ですが、そんなお涼はものすごく忘れっぽく、稀代の「忘れん暴将軍」です。 買い物に行くときは必ずメモをとっておかないと、あれは自分でもどういうシステムになっているのかわからへんけど、絶対に買わなきゃいけないものを買い忘れて、もう家にあるものを必ず重複して買って帰ってくる。現在、私の家にはタバスコとポン酢と七味とわさびのストックがそれぞれ2本ずつある。あと何年経てば最後のストックまでたどり着けるのだろうか。一人暮らしにおいての調味料のストックって、お隣さんに強制的にお裾分けしたくなるほど、一向に減りませんのよとほほ。それと同じように、とにかく人との約束も、病院の予約も、どんな些細なことでも書いておかないと、いつでも忘れん暴将軍は猛威を振るって記憶を一刀両断して無に帰せます。 その証拠に、高校時代、私がダンス公演に参加したり芸能事務所に所属したことによって休まざるをえなくなった部活を辞めるのか辞めないのかについて話し合うという会合において、あろうことか議題の中心である私が、メモをとることを忘れていたばっかりに放課後学校から先に帰ってしまい、家のホットカーペットの上でとろけるチーズ化していたところ、部員から「なにしてんの?」というメールがピコーンと送られてきたので「いまとろけるお涼・オン・ザ・ホットカーペット」と返信しそうになったところで「はっ!」ととろけていた体が凝固し、急いで部室に行ったけど、「もう結構です」と部員たちに呆れられ、部室から締め出されてしまった。
坂口 涼太郎