プレス加工の作業音が響く石橋製作所の工場内。社内では2度目の「変革」に向けて準備が進む＝10月中旬、函南町

　国内の経済・雇用を支える「屋台骨」の自動車産業。国はカーボンニュートラル実現へ多様な選択肢を掲げ「EV（電気自動車）でもエンジンでも勝つ」基本戦略を打ち出す。一方、足元では急成長していた世界のEV市場が需要一巡で減速し、先が見えづらい状況だ。衆院選で各党がそろって景気対策を強く主張する中、輸送機器メーカーを中心にサプライチェーン（供給網）を構成する本県の中小製造業は、各党が自動車産業の未来をどう描くのか、論戦を注視している。 　「今は下火でもいつ覆るかわからない。先駆けて動かなければ」。エンジン周辺部品の金属プレス加工やプレス金型製作などを手がける石橋製作所（函南町）の石橋達也社長（60）は口元を引き締めた。EVシフトの動きを眼前に、同社は今、自社2度目の「変革」に挑もうとしている。 　複写機やプリンター部品を担っていた1990年代後半、売り上げの9割を依存していた取引先が海外に生産移管し、苦境に陥った。2000年ごろから自動車部品を扱うようになり、他企業が手を付けにくい発注に応じたり、提案力を高めたりしてこつこつ仕事量を増やしてきた。 　「車でやっていく」はずだったが、業界の変化のスピードに対し、危機の経験や成長への意欲が変革への思いを再び強くさせた。現在、地元金融機関の支援を受けて経営基盤の強化に取り組みつつ、昨年取引が始まった半導体装置向け部品や、次世代自動車部品など新たな市場開拓を進める。「自社の技術に付加価値をつけ、業界を限定せず、生かせる所を探し続けたい」 　「地殻変動」とも称されるEVシフトなどの産業構造変化に、中小製造業がいかに対応するかは本県地域経済の重要課題と位置付けられてきた。18年に始動した浜松地域イノベーション推進機構次世代自動車センター浜松（浜松市中央区）は、中小の電動化部品の試作や技術高度化を積極支援している。固有技術を生かして成果を出す企業がいる一方、原材料高による経営圧迫や慢性的な人材不足などを抱えて「変革に一歩踏み出せるかは経営者の熱意頼み」（県西部の支援機関）なのが実情だ。 　経済産業省は22年から中堅・中小サプライヤーの攻めの構造転換を後押しする「ミカタプロジェクト」を全国で展開。専門家派遣や設備投資支援を進めるが、「取り組めるのは開発型企業の一握り」との指摘がある。次世代自動車センター浜松は昨年から小規模企業の現場改善による収益力向上を目指した事業を強化。国の手が届きにくい、現場ならではの支援を徹底する。自動車分野での国際競争のさらなる激化を見据え、地域雇用の多くを担う「ものづくり中小」高度化の戦略構築が急務だ。 　＜メモ＞次世代自動車センター浜松（会員約520社）が2024年2月に実施したアンケートによると、電動化や自動運転など次世代自動車技術「CASE」のうち、電動化（E）について答えた企業（221社）の中で、「開発中」「量産中」と答えた割合は、19年比5．4ポイント上昇の計48．4％だった。一方、「何もしていない」が15．4％、「調査中」が33．0％と具体的な取り組みに至っていない企業もある。コネクテッド（C）や自動運転（A）、シェアリング（S）については、「何もしていない」「調査中」が計80％以上を占めた。