台所や食事に潜む「永遠の化学物質」PFAS、食品安全委員会が評価案を発表、避けるには
フライパンや鍋だけでなく包装や食品そのものにも、健康への影響は?
米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)の前所長であるリンダ・バーンバウム氏は、以前は焦げつき防止加工の鍋やフライパンを使っていたが、すべて処分してしまい、今は1つも持っていない。なぜか? 食材が焦げつかないことを売りにする調理器具の多くにPFAS(ピーファス)が使われていることを不安に思うようになったからだ。 「病気を生む顔」になる食べ物とは 画像5点 PFASは有機フッ素化合物のうち「ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物」の総称で、熱に強く、油脂や水をはじき、汚れを防ぐ性質があるため、さまざまな製品の加工に使われている。 PFASは非常に便利だが、環境にいつまでも残留するため「永遠の化学物質」と呼ばれ、人体に有害な影響を及ぼす可能性があるものも指摘されている。PFASはどこにでもある。汚れにくい加工をしたソファーにも、泡消火剤にも、地域によっては水道水にも、あなたの家の台所にもある。 だからバーンバウム氏は、焦げつき防止加工の調理器具を使うのをやめたのだ。「PFASには非常に多くの種類があり、あらゆる場所に、あらゆるものに、そして私たち全員の体内に存在しています。私はこれ以上PFASにさらされたくないのです」 近年、研究者や消費者の間でPFASへの懸念が大きくなっている。そもそもPFASとは何なのか? どんな影響を及ぼすのか? 台所からPFASを追い出すことはできるのだろうか?
PFASとは何か?
米国の非営利環境団体「環境ワーキンググループ(EWG)」の上級科学者であるターシャ・ストイバー氏は、PFASには膨大な種類があると説明する。厳密な数はわからないが、推定では1万5000種類以上あるという。 いずれもフッ素と炭素の結合を持ち、この結合から「汚れがつきにくく、油脂や水をはじくというユニークな性質が生まれます」とストイバー氏。しかも、「PFASはほとんどの人の体内に存在しています」 PFASのうちPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸、ピーフォス)、PFOA(パーフルオロオクタン酸、ピーフォア)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)は国際条約で規制や廃絶の対象となっており、日本では環境への影響やヒトと動物への毒性から、それぞれ2010年、2021年、2023年に製造と輸入が禁止されている。 米疾病対策センター(CDC)は、公式には、PFASが人体に及ぼす影響は「不確実」であり、さらなる研究が必要だとしているが、これまでの動物実験によりPFASが動物の「生殖機能、甲状腺機能、免疫系に影響を及ぼし、肝臓を損傷する可能性」が示唆されていることも認めている。 日本の内閣府食品安全委員会が2月6日にまとめた「PFASの食品健康影響評価書(案)」では、PFASのうちPFOSとPFOAについて、血清ALT値(肝機能の指標の一つ)やコレステロール値の増加、出生時体重の低下、免疫応答の低下との関連は否定できないと評価された。一方、PFOS、PFOAおよびPFHxSについて、腎臓がん、精巣がん、乳がんとの関連についての証拠は限定的または不十分だとした。 「PFASが健康に悪影響を及ぼすことはないと主張する人もいるので、どちらが正しいのかと困惑するかもしれません」と、民間企業のためにこうした問題について研究している米アイオワ州立大学ポリマー・食品保護コンソーシアムのディレクターであるキース・ボルスト氏は言う。「けれども今では、これらの物質がかなり深刻な健康上の懸念を引き起こすと言えるだけの医学的証拠が蓄積されています」