“失恋ソングの女王”が40代で挑んだ国家資格 救急救命士として「啓発活動を行っていきたい」
アルバムの仕上がりに自信「もう本当に素晴らしくて」
――そんな人生の転機を経験し、新作『901号室のおばけ』がリリースされました。ご自身はどんな感想を。 「この3年の間に新しい経験も重なりました。昨年はデビューして20年の間、密かに挑戦したいと思っていたお芝居のお仕事が、突然、舞い込んできました。いつもの創作とは違い、演出家の求める形に懸命に応える。そして私自身を表現してきた私が、私ではない別人を表現する。何もかもが面白かったです。そして学校で生徒という立場で受け身に徹する。この経験が、今回の制作にもしかしたら大いに影響を与えたと思っています。そして音楽も、絞りきって真っ白になっていたからこそ、新たな挑戦をしてみたいと思うようになりました」 ――新たな挑戦とは。 「ずっとセルフプロデュースでやってきたのですが、燃え尽きたような状態なうえに3年間別世界に身を置いていたわけです。私自身が柴田淳をすっかり忘れてしまっていたんですよね。だから今回は今までの体制を刷新したアルバムを作れるチャンスだと思ったんです。スタッフさんにも、なにか今までのやり方で課題があったなら、それ今なら変えられるチャンスですよって。でも、それができるということは、今の私はいわゆる真っ白な状態だったわけです。どこに行ったらいいか、何をすればいいか全くわからない。それでスタッフさんに『プロデューサーをつけて制作したい』とお願いしました」 ――音楽プロデュースは、一青窈さんを始め、数多くのアーティストを手掛けてきた武部聡志さんが担当されました。 「実は1年前に武部さんのラジオ番組に出演した時、『いつか一緒にやりましょうね』って声を掛けてくださっていたんです。それで今回、真っ先に武部さんにお願いしたのですが『僕との約束を覚えていてくれてありがとう』って、快諾していただきました」 ――武部さんとやってみた感想はいかがでしたか。 「もう本当に素晴らしくて。全てがぜいたくなサウンドで、まるでシングルベストを制作したような充実感がありました。私の頭で鳴っている音を忠実に再現して、さらに予想をはるかに超えたレベルのアレンジに仕上げてくださり、『自分で作ったの?』と思ってしまうくらい感動してしまいました」 ――今までにないアルバムに仕上がったのですね。 「きっと今までだったら意見がぶつかっていたかもしれません。特に私以外の人が触れることは許されなかったボーカルに関しても武部さんが担当されたので、初めは不安でしたが、完成して聴くと、『私にはこんな一面があったんだ』と客観的に聴くことができました」 ――あらためてプロデューサーとしての武部さんはどんな印象をもちましたか。 「アーティストに合わせて臨機応変に形を変えられる柔軟な方です。『プロデューサーって、こういう方のことを言うんだ』って初めてそう思いました。新作は、受け身を知ったからこそ形になった作品ですが、言い換えると『この先どうしたらいいの』って迷っていた私に手を差し伸べてくださり、夢中になって私のためにアレンジしてくださったアルバムになりました。だから私の中では、武部さんとの共作と言えるようなアルバムになりましたね」 ――きっと武部さんはプロデュースを通して、アーティスト・柴田淳の良さを柴田さんご自身に伝えたかったのでは。 「『私の知らない私』ということですよね。もしかしたらそうかもしれませんね」 ――では、救急救命士としての今後の活動はいかがでしょう。 「今は国家資格を取得しただけの“ペーパードライバー”なので、現場での経験はまだありません。それでもいつか救命を教える資格を取って、音楽活動と並行して全国で救命講習などのイベントを開催したり、病院救命士として、ERで働いたりしていけたら最高だなと思っています。誰もがバイスタンダー(=第一発見者)になる可能性があって、その時、どういう行動を取るべきか、学校やさまざまな場所でその方法を伝えていく啓発活動を行っていきたいです」 ――役者としての目標は。 「ぜひ続けていきたいです! みなさんからのオファーをお待ちしています!!」 □柴田淳(しばた・じゅん)1976年11月19日、東京都出身。3歳よりクラシックピアノを習い、高校でJ-POPに目覚め、歌手を目指す。2001年、シングル『ぼくの味方』でデビュー。現在までシングル19枚、オリジナルアルバム14枚、カバーアルバム2枚他、LIVE Blu-ray等をリリース。12年にリリースした初のカバーアルバム『COVER 70’s』が、全日本CDショップ店員組合『2013特別賞』を受賞。23年10月に『ETERNAL GHOST FISH』で初舞台を踏んだ。24年3月、第47回救急救命士国家試験に合格し、救急救命士となる。シンガー・ソングライターのほか、俳優、楽曲提供、ナレーション、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動している。
福嶋剛