「トイレットペーパーの三角折り」に「お世話になりますメール」 日本の“過保護&過剰サービス”もうやめませんか(中川淳一郎)
世の中不要なものっていろいろあると思うのですが、子供の頃から「これ、なんのためにあるんだ?」と思っていたのがネクタイです。おしゃれグッズとして各人が自己判断のもと着けるのであればいいのですが、いつしか「会社員たるもの(役人たるもの)ネクタイを着けないのは失礼である」という風潮になってしまった。 【写真をみる】ほかにも「いらないモノ」ってたくさん! 日本の“過保護&過剰サービス”の数々
クールビズが定着して以来、ネクタイはビジネスシーンにおいて「常に必須」ってほどにはなっていないものの、厳正なる場所ではいまだに必要です。葬式の時も黒いネクタイを着ける必要はありますし、夏以外の役所関連の行事では求められる。そして理解できないのが、定年退職した高齢男性がネクタイなんだかネックレスなんだかよく分からない中途半端な「ループタイ」とやらを着けている点です。 これも「定年退職したからネクタイほどフォーマルなものは着けないでいいけど、少しだけカジュアルなループタイはあった方がいいよね~」という謎のグッズのように思えます。もちろん私も葬式の時は故人への敬意を込め、黒いネクタイを着けますよ。でも、こんなにクソ暑い中、ネクタイを着ける必要なんてあるんですかね? 冬だってネクタイ、別にいらないでしょ? 「防寒になる!」と反論されるかもしれませんが、じゃあなんで女性はネクタイを着けず、男性だけが着けるのか?
1985年に発売された『現代無用物事典』という本があります。この本は実に痛快です。取り上げているのは、「戒名」「敷金」「電話のお待たせオルゴール」などですが、確かにいらない。 39年前の本ではあるものの、当時も今も不要なものを探そうと思えばいくらでも探すことができる。ネクタイだってそうですし、商業施設やホテルの便所のトイレットペーパーを三角に折るのだって一体なんのメリットがあるのだか分からない。「サービスしてますよー!」と言いたい自己満足でしかない。 あとは、昔は黒電話にカバーをつけていたんですよね。さらにティッシュ箱にもカバーがついていました。一体アレは何だったのだろうか……。かくして不要なものというのは常に存在するのですが、私が2024年現在、「いらない」と思うものを挙げます。 まずは「メールの冒頭に『お世話になります』と書く」ことです。コレ、書いて何になるんですか? メールでやり取りする関係ならばお互いすでにお世話になっているではないですか。もうやめません? あとは飲食店の「お冷や」です。欲しい人が所定の置き場に設置されているポットから水をコップに入れればいいのに、無駄に店員に手間をかけさせる。電車のアナウンスにしても、「駆け込み乗車は危険ですからご遠慮ください」とくるが、急いでいるから駆け込むわけで、その人は一生駆け込み乗車をやめない。 結局日本って過保護なのと、過剰サービスをすることが当たり前になっているんですよね。これも「注意がなかったから私は転んだ!」「私は水が欲しいのに水がなかった!」といったクレームを回避するためにサービス提供者が予防線を張っているだけ。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。 まんきつ 1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。 「週刊新潮」2024年9月26日号 掲載
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