【韓国】尹氏に迫る「内乱罪」捜査 出頭拒否なら逮捕の可能性も
14日の臨時国会で弾劾訴追案が可決され職務停止状態にある韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領。審判の場は憲法裁判所に移され27日にも本格的な審議が始まるが、その一方で尹氏には「内乱罪」の容疑もかかる。捜査機関は尹氏が出頭要請を拒否し続ければ、逮捕に動く構えだ。前国防相や軍の司令官ら非常戒厳に関わった人物が相次いで逮捕される中、捜査の手が尹氏にも達するかどうか注目される。 内乱罪は、憲法に基づく秩序を乱したり、国家権力を排除したりする目的で暴動を起こした場合に問われる罪のこと。首謀者には死刑や無期懲役、無期禁錮が科される可能性があり、在職中に刑事訴追が原則的に免除される大統領も例外として訴追対象となる。 過去には、全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領(1980~88年在職)や盧泰愚(ノ・テウ)元大統領(88~93年在職)が、80年に軍が民主化運動を弾圧した「光州事件」を巡る内乱罪で懲役刑を科され、大統領を退任後に収監されたケースがある。 尹氏の場合、3日夜に発動した戒厳令が「憲法に基づく秩序を乱すための暴動」に当たるかどうかが争点になるとみられている。 ■出頭要請への対応が焦点 尹氏に対する内乱罪容疑は、検察と警察、政治家ら高位公職者に対する独立捜査機関である高官犯罪捜査庁の3機関が捜査を進めている。いち早く動いたのは検察で、9日に尹氏の出国禁止措置を法務省に申請し、許可された。警察と高官犯罪捜査庁は国防省と「共助捜査本部」を立ち上げた。 16日には、検察と共助捜査本部の両者が尹氏に対して出頭して調査を受けるよう要請したが、尹氏側はこれを拒否。その後、検察が尹氏の内乱罪容疑に関する捜査を高官犯罪捜査庁に移管することを決め、捜査機関を一本化した。 さらに共助捜査本部は20日、「25日に高官犯罪捜査庁に出頭するよう」通知した。これに尹氏が応じるかどうかに注目が集まっている。 聯合ニュースなど韓国メディアによると、2度目の出頭要請は「最後通告」を意味するとみられる。そのため、共助捜査本部は尹氏が2度目の出頭要請を拒否した場合、逮捕状を請求することも視野に入れているという。もし逮捕されれば、現役の大統領としては初めてとなる。 ■埋まりつつある外堀 尹氏への捜査が本格化する一方で、すでに非常戒厳の宣布を巡って多くの逮捕者が出ている。とりわけ、逮捕された軍の関係者が「尹氏の直接的な指示」を主張している点が注目されている。 検察は11日、非常戒厳の解除後に辞任した金竜顕(キム・ヨンホン)前国防相を逮捕した。金前国防相は、閣議で尹氏に非常戒厳の宣布を促したことから「内乱の重要任務従事者」として逮捕状が出された。同日には、趙志浩(チョ・ジホ)警察庁長と金峰植(キム・ボンシク)ソウル警察庁長も、非常戒厳時に警察を動員して国会を規制した容疑で警察に逮捕されている。 捜査は軍の関係者にも及ぶ。13日に首都防衛司令官の李鎮遇(イ・ジヌ)氏が逮捕されたのに続き、14日には呂寅兄(ヨ・イニョン)国軍防諜司令官、16日には郭種根(クァク・ジョングン)陸軍特殊戦司令官をそれぞれ逮捕した。 このうち趙氏と李氏、郭氏の3人は、尹氏から直接「国会議員を逮捕しろ」と電話で指示を受けた証言している。 このほか、非常戒厳の戒厳軍司令官だった朴安洙(パク・アンス)陸軍参謀総長のほか、布告令作成に関与した疑いが持たれているノ・サンウォン元情報司令官、非常戒厳時に中央選挙管理委員会に軍を派遣したムン・サンホ情報司令官も逮捕されており、尹氏を内乱罪容疑で捜査するための外堀が徐々に埋まりつつある状況だ。 ■尹氏は「潔白」強調 ただ、尹氏自身はこれまでに発表した国民向け談話の中で「内乱を起こす意図はなかった」との点を強調している。尹氏の弁護人団構成を主導するソク・ドンヒョン弁護士も19日の記者会見で、「尹氏は『戒厳令は内乱罪に当たらない』という堂々とした立場を示している」と述べている。 ソク氏によると、尹氏は戒厳令発動時に「市民と衝突してはいけない」「国会議員を逮捕せよという指令は出していない」などと主張しているという。これらは、「尹氏から直接国会議員を逮捕するよう指示された」と国会で証言した軍関係者の発言とは真っ向からぶつかる格好だ。 検察は19日、警察庁・国家捜査本部と国防省・調査本部に対して家宅捜索を行った。尹氏の指示が疑われている「警察の国会議員逮捕チーム」が実在したかどうか、その証拠を確保するためで、現在は押収した資料の分析を進めている。 これまでの捜査では、尹氏の関与について証言はあるものの物的証拠は見つかっていないため「内乱罪の成立は五分五分」との見方が強い。しかし、捜査が進展して証拠が見つかれば、尹氏はさらに危うい立場に追い込まれる恐れもある。