20年の時を経て「公安9課の存在意義」が覆った?2月3日“笑い男事件”当日に『攻殻機動隊SAC』監督が思い語る
20年の時を経て、自分だけでなく「公安9課の立場」も変わった
次に、ネット社会の20年間の変遷を経て、神山監督は「描き手である僕の立ち位置も変わっていった」と切り込む。 「本作を作っていた時は、巨悪を倒そうとする側にいて、ネットを武器に正義を成す視点で描いていたが、作品を作っていく内にいつの間にか立場が逆になっていました」。正義か悪かは立場によって見え方が変わり、そこがネットの良さでもあるとした上で、「ネットは常に世代が入れ替わっており、新しい人たちのネットの見方は自分が『S.A.C.(攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX)』を作った頃とは違っていくんだろうなと感じます。ただ、自分は自分の立場から見た景色しか描けないので」と語り、こうした理解は、作品の変遷とともに変わっていったものかもしれないと分析した。 『ひるね姫』(2017年公開)では3世代の物語を描いていたが、世代の違いをどのように感じるか問われて、神山監督は「当時は、ホールデンのような人物こそがネット社会の主人公になっていくはずだと思っていたので、僕の中でたまたま少し先の未来が見えていたのかな」と語った。一方で、ネットに新たに入ってきた人たちが感じていること、使いたい言葉といったものが自分とズレたと感じる瞬間もあったようで、「だいたい10年くらいで世代交代がくるんじゃないかと思う」と語った。 また、公安9課の立場も時代の変遷で変化していったという興味深い話も飛び出した。「彼らは警察官のようなことをやっているが、中道左派くらいの立ち位置。2000年初頭くらいまでは、正義のヒーローとして存在していたが、2010年代になると“ネトウヨ”と呼ばれる人たちが出てきて、左と右が入れ替わるぐらいの体験があったような気がします。体制側にいる人間が正義を成すということははあり得ない、というような公安9課の存在意義がひっくり返った感覚もありました。正義と言う言葉も、物事を正当化するために、悪い意味で使われる場合も出てきた」と指摘し、時代の変化を語った。 話は変わり、最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』に登場するシマムラタカシと、笑い男・アオイの共通点について聞かれると、神山監督は「2010年代ぐらいにこれからはヤンキー(フィジカル)の時代が来ると言われていたが、結果的にはネット民の方が、今の社会に影響力を持っていると思っています。20年経って改めてネット社会で覇権を取っている人を最大公約数としてビジュアル化していった際、アオイ君に似てしまったんですね」と明かし、「やっぱりヤンキーの時代は来ませんでした」と言って会場を笑わせた。