20年の時を経て「公安9課の存在意義」が覆った?2月3日“笑い男事件”当日に『攻殻機動隊SAC』監督が思い語る
士郎正宗原作、Production I.G制作によるTVシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』放送から20年を経て、物語の中核をなす出来事“笑い男事件”の作品設定上の発生時期である2024年2月3日に現実世界がついに到達。 【画像】神山健治監督ほかイベントフォト+OVA新規カット写真(全6枚) この日を迎えるにあたり、TVシリーズ全26話を“笑い男事件”を中心に新作カットや新規アフレコを追加した総集編OVA作品『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』の上映&トークショーイベントが、2024年2月3日(土)に開催された。トークショーには、本作の監督を務めた神山健治氏、SF・文芸評論家で著書『攻殻機動隊論』を上梓した藤田直哉氏が登壇。当時の制作秘話や20年の時を経て思うことを語らった。
2ちゃんねるも影響?「笑い男」着想の原点語る
この日、2月3日は作品設定上“笑い男”がTV生中継現場に姿を現した日付であることから、“笑い男事件”をテーマにトークが展開。舞台となった渋谷のスクランブル交差点では、実際に“笑い男”の恰好をした人の姿が見られたらしく、放送から20年経った今も根強い人気を誇っていることがわかる。 まず初めに、本作で描かれたネットミームの拡散やネットを使った社会改革など、この20年で現実に起こっていることを先取りしていた内容について触れ、神山監督は、当時の携帯電話でメールがようやく140文字程度のテキストを送れるようになったが、写真はまだ送れなかったことを振り返る。 「各メーカーが『せっかく(電話で)会話できるのに、なぜテキストで会話するんだろう』と言っているのを聞いた時、自分はたぶん、テキストの方が使われるだろうと思った」と語った。電話をかけることが意外と面倒であること、テキストなら好きな時間に簡単にやり取りができるため、メールで会話する人たちが出てくるだろうと思ったとのことで、神山監督が鋭い洞察力を持って世の中を見ていたことがわかった。 話はさらに“笑い男”が生まれるきっかけへと深掘りされた。本作の題材となった小説『ライ麦畑でつかまえて』(J.D.サリンジャー著)の主人公・ホールデンの、あまり外交的ではない少年のキャラクター像について、神山監督は「今でいうPTSD(心的外傷後ストレス障害)だと思うのですが、あの小説が書かれた当時、主人公は単に不良と呼ばれていた。でも自分は全くそういうキャラクターではないと思っていて、社会と接していくのが上手くない人ほど、テキストを使った会話に親和性があると思った」と話し、ホールデンのような人物が、来るべきネット社会の主役になっていくタイプの人間であり、公安9課にとって最強の敵となるキャラクターに違いないと思ったことを明かした。 また、同作家の短編集『ナイン・ストーリーズ』に収録されている一編『笑い男』に登場する、社会との折り合いが苦手な男が、ネット社会の主人公となるだろう人物像と合致していたことが “笑い男”の話を作る契機になったという。神山監督は「ネットが今ほど発達していなかったため、『攻殻機動隊』という世界観を可視化するロジックとして、この題材をうまく織り込んでいったらわかりやすいのでは」と考えたのが発想の原点だったとのこと。 放送当時、2ちゃんねるなどの匿名掲示板で本作が語られていたことについて意識していたか聞かれると、神山監督は「顔の見えない人たちが共通の話題をベースに色々なことを語ってタイムラインが伸びていくのが、ネットが広がっていくことのわかりやすいマップ」のように感じたと話し、「たまに2ちゃんねるで話題を提供してヒーローになってしまう人が出てくるが、そうした存在を『攻殻機動隊』を作るうえでネットの概念として取り入れていたのは記憶にあります」と振り返った。