自分ならどうする? 戦争の「リアリティー」 NHK戦争証言アーカイブス・プロデューサーに聞く(下)
1970年代に『戦争を知らない子供たち』という曲が流行した。戦争体験者の高齢化が進む一方で、「戦争を知らない世代」はどんどん広がり、今や、若い世代だと祖父母ですら戦争を体験をしていない「本当に戦争を知らない」世代の時代になりつつある。こうした若い世代にどう戦争体験を伝えていくのか。戦争体験者の証言を集めた動画サイト「NHK 戦争証言アーカイブス」の立ち上げを主導し、いまもチーフ・プロデューサーとして関わるNHKの太田宏一氏(51)は「戦争を体験した人たちの『リアリティー』を感じて、考えてほしい」と語る。 【画像】高齢化する戦争体験者「伝え残したい」(上)
若い世代が取材
「NHK 戦争証言アーカイブス」に集められた証言の多くは、シリーズ番組「証言記録 兵士たちの戦争」と「証言記録 市民たちの戦争」が基になっている。これらの番組はNHK地方局の若いディレクターが取材をし、制作した。「兵士たちの戦争」なら各地方の部隊に所属していた兵士、「市民たちの戦争」なら空襲などを体験した市民に話を聞いた。 太田氏は「最初は不安だった」と率直に語る。主に20代のディレクターなので、親世代や、場合によっては祖父母の世代も戦争を経験していない、いわば「本当に戦争を知らない」世代だ。しかしそれは杞憂だった。 「証言者の方たちに『伝え残したい』という思いがあるからだとも思うが、僕ら世代のようなある程度知識がある人間が行くよりも、孫のような若い世代が『おじいちゃん、戦争のこと聞かせて』と行ってよかったのかもしれない。心を開いて、しっかり話をしてくれた。若いディレクターたちも初めて触れる戦争取材に非常に刺激を受けて一生懸命やって、それもよかったと思う」。
“リアル”な戦争
当初は想定していなかったことだが、太田氏はある時期から、このシリーズの取材は若いディレクターたちにとってある種の教育的な役割を果たしているのではないかと感じるようになった。 「本当に凄惨な体験した人たちに、自分がどう向き合うか」。これが取材をする上で大事なことだという。極限状態の戦場で、自分が餓死寸前のときに戦友を守るために最後まで運べただろうか、ということを自分に問いかけながら話を聞く。批判的な目は持たなくてはいけないが、自分がその場にいたとき、正しいと思うことを貫けるかという葛藤の中で取材する。それが戦争や過去の悲劇に向き合うときのあり方だろうと話す。 そして、こうした戦争体験を伝えることで、視聴者にも戦争を自分のこととして考えてもらえれば、と太田氏は願う。 この企画を始めてから、例えば電車の中で高齢者を見かけたとき、壮絶な戦争を体験をして生きてきた人ではないか、と考えたりするようになったという。 「実は、ふとスマホから目を上げると、目の前にいる人がそういう体験をした人なのかもしれない。そういう人たちが社会のいろいろな所にいるんだというリアリティーを感じるようになった。証言してくれているのは、その辺にいるおじいちゃんやおばあちゃんですから」。