自分ならどうする? 戦争の「リアリティー」 NHK戦争証言アーカイブス・プロデューサーに聞く(下)
若い世代にどう伝える?
若い世代に戦争をどう伝えていくか。これはメディアとしても大きな課題だ。「一番難しいのは『とっかかり』をつくること。まずは見ようとするモティベーションを持ってもらい、見る機会を得るという一歩を踏み出してもらうのがとても難しい」と太田氏は話す。以前、番組を放送していたとき、若い世代から「真夜中にふと一回見始めたら最後まで見てしまって、いろいろなことを考えた」と手紙を送られたこともあった。 いろいろな取り組みも始めている。例えば4月から、戦争体験者の証言に基づいたある家族の物語を漫画で見せたり、空襲や疎開などのテーマで2~3分の短い動画クリップを作って、まずはそこから見てもらうなど、さまざまな「入り口」を設けている。サイトのアクセス数も、番組が終了した後もずっと減らず、「こういう取り組みがある程度、効果を得ているのかな」と手ごたえを感じている。 若い世代が特に使うスマホの活用についても、「例えば沖縄などの戦跡に行って、その場所で証言を聞ける。東京大空襲でもそう。そこの地形や空気を感じながら証言を見てもらえれば、よりリアルな見方ができるかもしれない」と、考えている。
人間は“鬼”だ
たくさんの戦争証言の中で、太田氏は「戦争という出来事以上に、人間としての精神性みたいなものを感じることがたくさんある」という。 「フィリピンの部隊の将校さんの話だが、『斬り込み』という陸の特攻のような作戦があった。上層部の方針なので自分の部下に斬り込みを命令して、たくさんの部下をなくした。それで本人が生き残ってしまって、戦後、その方は自分は楽しいことをしてはいけない、と考えられて、自分の子どもの結婚式にも行かないというように、ずっと責任を感じながら生きてこられた」。 一方、戦争という極限状態の中で、人間が本質的に持っている醜さや、たくましさ、善良さなど、さまざまな部分が証言から出てくるという。 「ニューギニアの部隊の将校の方が言っていたが、人間の本性は『鬼』なんだ、と。優しい仮面をかぶっているけれど、極限の状態に追い込まれたら、生きんがために何でもやってしまう」。
証言は、そういう「人間とは何者ぞや」という深い洞察にいざなう言葉に満ちあふれている。そうした言葉の一つ一つを、文学者でも哲学者でもない、「普通のおじいちゃんたち」が自分の体験を基に表現することに、太田氏は戦争体験の強烈さを感じる。 太田氏は語る。「イデオロギー的なものは置いておいて、まずは予断を持たずに、戦争を体験した人の『リアリティー』は何なのか、を感じてほしい。自分がその場にいたら住民に刃を向けてしまったかもしれない、などいろいろな葛藤を持ちながら、戦争というものを考えていかなくてはいけない。その上で、今後の日本をどうつくっていくかを考えるべきだと思う」。