海外での腎臓移植を望む50代女性が陥った“罠” 海外「臓器売買」の闇を追う調査報道のきっかけ
■「親族間の生体移植」を装う 日本を出発したのは21年6月。空路、ウズベキスタンの首都タシケントに入った。それまで電話とメールでやりとりしていた菊池と現地で初めて会った。通訳のカタリナからは「トルコ人のコーディネーターが関与している」と聞かされた。 菊池の当初の説明では「40日で日本に帰れる」とのことだったが、「ドナーが見つからない」と言われ、手術日がなかなか決まらなかった。「どうなっているのかしら」と思いながら、タシケント市内のホテルで滞在を続けた。
ひまを持て余し、近くの公園を散歩したり、買い物をしたりして気晴らしをした。長期滞在に伴い、それまでの腹膜透析から血液透析に切り替えており、定期的に現地の病院に通って透析治療を受けた。 やっとのことで「ドナーが見つかった」とNPOから伝えられたのは、渡航から4カ月ほどたった10月頃のことだ。ドナーは中年のウクライナ人女性で、名前をエレナといった。トルコ人側の手配でタシケントに来ていた。 本田は、病院での検査の際などに何度もエレナと顔を合わせている。エレナは本田よりも小柄で、片言の日本語で「朝ご飯は食べましたか?」などと気さくに話しかけてきた。明るくおおらかな人柄で、何かと言えば「ハグ」をしてきた。
滞在先のホテルなどで、エレナはカタリナから日本語を教わっており、「幸せなら手をたたこう」という歌を日本語で口ずさんでいた。 エレナを日本人の本田の親族に見せかけ、違法ではない「親族間の生体移植」を装うのが目的だった。それは後に知ったことで、本田は当時、何も知らされていなかった。 ■近づく手術、突然の病院変更 いよいよ手術の日が近づき、本田はホテルを出てタシケントの病院に入院した。 ところが、11月下旬に突然、カタリナから「隣国のキルギスに行きます」と告げられた。ちょうど入院先の病院から外出していた時だったが、病院に荷物を取りに行く間もなく、空港に直行した。