海外での腎臓移植を望む50代女性が陥った“罠” 海外「臓器売買」の闇を追う調査報道のきっかけ
■検索したNPOに依頼 関西地方で暮らす本田が腎疾患を発症したのは、2010年頃のことだ。 水分の入った袋が腎臓に多数できて腎機能が低下する難病で、20年春には症状が悪化し、体内から老廃物を取り除く人工透析治療を受けなければならなくなった。 人工透析治療は多くの場合、週3回ほど病院に通院し、体内の血液を機械に迂回させて血液中の老廃物を取り除く「血液透析」を行う。体に針を刺し、ベッドの上で4時間ほど過ごさなければならず、患者の負担は大きい。
これに対し、本田は自宅でできる「腹膜透析」と呼ばれる治療法を選んだ。おなかの中に注入した透析液に老廃物を取り込み、透析液ごと体外に取り出す手法で、夜間にもできることなどから患者の負担は比較的軽いとも言われる。 ただ、透析に欠かせない腹膜の機能が徐々に低下するため、この治療法を継続できる期間には限りがある。5年とも10年とも言われており、いずれは血液透析に移行しなければならなかった。 病を治し、こうした日々から逃れるためには、腎臓の移植手術を受けるしか選択肢はなかった。だが、国内で腎臓移植を希望しても、腎臓を提供するドナーが著しく少ないことから、平均で10年以上待つ必要がある。
本田は「早く移植を受ける方法はないか」とインターネットで検索した。辿(たど)り着いたのが、海外での臓器移植を仲介するNPO法人「難病患者支援の会」のホームページだった。 本田は家族に相談の上でNPOに連絡し、実質代表者(後に理事長)の菊池仁達(ひろみち)と電話やメールでやりとりを始めた。本田より4歳年上の菊池からは当初、東欧・ブルガリアでの移植を勧められたが、その後、ウズベキスタンを提示された。
一度も足を踏み入れたことのない異国での移植手術に、本田は大きな不安を感じたが、ほかに早く手術を受けられる方法は見当たらなかった。 NPOから伝えられた移植費用は約1850万円。本田にとっては大金だったが、貯めていた預貯金で何とか用意することができる。本田は「これで健康を取り戻せるのなら」と、藁(わら)にもすがる思いで移植の仲介を依頼することに決めた。 口座振り込みで金を支払う際、費用の内訳について聞くと、菊池は「これは闇だから」と多くを語らなかったという。契約書も存在しなかった。それでも、本田はNPOに紹介された新大阪駅近くの医院で血液検査を受け、渡航の準備を進めた。