USスチールの買収は本当に日本製鉄のプラスになるのか~もはや電炉の時代なのに
時代は高炉から電炉へ
日本経済新聞 5月20日「神戸製鋼所社長、2高炉体制『1高炉・1電炉に移行検討』」と報道されるように、「高炉から電炉」への流れは明らかである。 高炉が排出する二酸化炭素は電炉の4倍以上にも上るとして、2021年8月21日公開「脱炭素・EV推進、『合理的な科学的根拠が無い』この方針は、もはや『宗教』だ」で述べた「脱炭素教」信者によるバッシングを受けていることも原因の一つだ。 だが、それはさほど重要なことではない。重要なのは、自動車用鋼材は95%、スチール缶は93.9%のリサイクル率を誇るというように、全体的に見ても鉄のリサイクル率が9割を超えていることだ。 遠くの国から鉄鉱石を輸入して、高炉で製鉄しなくても、スクラップを電炉で「溶かす」ことによって鉄を手に入れることができる。つまり、その気になれば、日本国内でほぼ100%、鉄の自給を行うことも可能なのだ。 高炉は一度火入れすると24時間連続操業するのが原則だから生産調整が難しいが、電炉は臨機応変に対応できる。 また、これまでは、高炉でなければ「精度が出せない」と言われてきた製品があったが、電炉の技術進歩によって、この垣根も埋められつつある。 もちろん、日本製鉄も電炉に舵を切っており、USスチールが有望な電炉メーカーを買収していることも強調している。 だが、そのような観点から言えば、日本製鉄よりもはるかに規模は小さいが、長年電炉に注力してきたメーカーの方が今後有望なように思える。 その一つが、大和(やまと)工業である。売り上高が2000億円を下回るから、8兆円規模の日本製鉄のせいぜい40分の1だ。 だが、電炉の世界では「大手」とされ、海外売上比率も54%と国際派である。 その大和工業が「全米最大の鉄鋼メーカーとのJoint Venture」を行っていることに注目している。 提携先は、エコノミストオンライン 2021年7月5日、宮川淳子「最高益をたたき出す米鉄鋼最大手ニューコアの強さとは」である。 このニューコアの優れた点は、前記記事でも紹介されている。しかし、私が注目するのは(米国企業には珍しく)「長期的視野を持ち現場を重視する(日本型)経営」を志向しているように思われる点だ。 日本製鉄のUSスチール買収は、過去の日本企業の「大型買収失敗」の歴史をなぞるのではないかと心配しているが、大和工業とニューコアの提携は今後の発展が期待できる。 なお、実際の企業への投資においては、「大原浩の逆説チャンネル<第15回>バフェット流の真髄は『安く買って高く売る』これがわからない人がほとんどだ。(バフェット流の真髄その1)」などを参照の上、自己責任で行っていただきたい。
大原 浩(国際投資アナリスト)