USスチールの買収は本当に日本製鉄のプラスになるのか~もはや電炉の時代なのに
問題は米国政府と労働組合!?
経済合理性だけを考えれば、日本製鉄が日本円でおおよそ2兆円もの投資を行い、「ジリ貧」のUSスチールのテコ入れを行うことは、米国にとって好ましいことのはずだ。 だが、今回の米国側の反応は、日本のバブルピークの1989年、ロックフェラーセンタービルという「米国の象徴」などを保有するロックフェラーグループを三菱地所が傘下に収めた時のものと似ている。かなり「感情的」な反応ということだ。 事実、USスチールは、J・P・モルガンおよびエルバート・ヘンリー・ゲーリーが保有していたフェデラルスチールと、アンドリュー・カーネギーが保有していた製鉄会社カーネギースチールの合併により、1901年設立された超名門企業である。同年には、USスチールがアメリカの鉄鋼生産の3分の2を支配していた。 さらに、全米鉄鋼労組(USW)は、クリーブランド・クリフスによるUSスチール買収案を支持していると伝えられるが、日本製鉄に買収されることに反対している。 だが、「日本型経営」の日本製鉄の方が、労働者にとっては「優しい」はずである。それにもかかわらず、日本製鉄による買収に反対するのは、労働者と敵対的ではない「日本型経営」の企業は、「経営陣と対立することによって自らの勢力を伸ばす『戦闘的』労働組合」にとっては都合が悪いからではないだろうか。
ビッグ3と同じ運命?
このような、政府と「戦闘的労働組合」が、自らの利益を守ろうとした結果、長期的に「企業そのものを衰退させた」ケースとしては、自動車メーカーの「ビッグ3」があげられるであろう。 今や、米国内でさえビッグ3の地盤沈下は明らかで、トヨタを始めとする日本車の存在感が圧倒的だ。 さらには、2月7日公開「惨状のボーイングとエアバスとの2社寡占は問題だ~そして三菱重工の残念な撤退」の「品質問題」は、安倍かすみ「米ボーイング内部告発者2人の突然死の怪 今月も福岡など世界中で相次ぐ事故やトラブル」で述べられているように、証言を予定していた人物が2人も「急死」する異常事態となった。 裁判で証言するとマフィアなどに命を狙われるから「証人保護プログラム」が存在するという治安の悪い国ではあるが、「闇の深さ」を感じざるを得ない。 もちろん、USスチールには今のところボーイングのような「品質問題」は発生していない。しかし、自動車産業なども含め、「米国製造業の劣化」はあまりにも明白であり、製鉄・鉄鋼業だけが例外だとは考えにくい。 もし、USスチールが最終的に日本製鉄による買収を拒めば、「ボーイング」や「ビッグ3」のような惨状を迎えるであろう。