海自新型「ドデカ水上戦闘艦」に搭載の“神エンジン”とは 人員削減時代の“新兵器”見据えた選択に?
世界一手のかからないエンジン!?
船舶用ガスタービン・エンジンは航空機用ターボファン・エンジンを基に開発された事例が多く、MT30もボーイングの旅客機「777」のために開発されたトレント800を基に開発されています。 トレント800は現在エアラインで大量輸送の主力機となっている777のエンジンとして40%以上のシェア、派生型のトレント1000もボーイング787のエンジンとして38%のシェアを獲得しています。 MT30とトレントシリーズは部品点数ベースで80%以上が共通しており、トレントシリーズの生産数の多さによりMT30は部品価格の低減と部品の安定供給を実現しています。 トレントシリーズが航空機用ターボファン・エンジンとしてシェアを獲得している最大の理由は、高い信頼性にあります。トレント800を搭載した航空機の定時出発率は99.9%以上、つまり、ほとんどが予定の出発時刻までに飛行しています。また、エンジンを機体から外して整備が必要となる率は“0.083%/1000時間”という驚異的な実績を残していますが、この高い信頼性は、船舶用であるMT30にそのまま引き継がれています。 整備にかかるマンパワーが少ないこともMT30の特徴の一つで、外観目視点検や機能点検、潤滑油の分析など、乗員が行なう11項目の整備に要する年間整備工数は1基あたり約50時間となっています。 またエンジン本体のオーバーホール間隔も、40MW仕様では高温部1万時間、その他の部分2万時間と、従来の艦艇用ガスタービン・エンジンに比べて延伸されており、世界一オーバーホール間隔の長いガスタービン・エンジンともいわれています。
レールガン使用も見据えた選定?
MT30は既に5隻が就役し、3隻が建造中のもがみ型護衛艦にも採用されており、今後はMT30の整備に慣れた隊員が増加していくものと思われます。 イージス・システム搭載艦は基準排水量でまや型(基準排水量8250トン)を上回る基準排水量1万2000トンに達する巨艦となる見込みですが、その一方で乗員はまや型の約300名から240名に削減される予定となっています。 少ない乗員数で艦艇を効率的に運用するためには、整備性の向上が必須条件となります。そのことを考慮すると、整備にかかるマンパワーを低減でき、かつ整備に慣れた隊員の増加も見込めるMT30は、イージス・システム搭載艦にうってつけのガスタービン・エンジンと言えます。 また、防衛省は艦艇に搭載するレールガンの開発を進めています。防衛省が開発を進めているレールガンは弾道ミサイルや航空機などの対空目標の攻撃も想定しており、実用化されればイージス・システム搭載艦にも搭載されるものと考えられます。 艦載型レールガンの実用化にあたっては、砲弾を打ち出す大きな電力をどうまかなうかが、課題の一つとなります。 MT30は、これまで自衛隊の護衛艦に使われてきたLM2500やLM2500を拡大したLM6000よりも電力供給量が大きいのも特徴です。艦載型レールガンが実用化されてイージス・システム搭載艦に搭載されることになれば、MT30をイージス・システム搭載艦の主機に選択した防衛省の判断は、さらに合理的なものになるのではないかと思います。 ※一部修正しました(6月10日12時13分)。
竹内 修(軍事ジャーナリスト)