NEC、金融業・製造業での生成AIの取り組みを解説 人間に近いコミュニケーションが可能なパートナーAIシステムも
日本電気株式会社(以下、NEC)は24日、エンタープライズ事業における生成AIの取り組みについて説明した。 【画像】NEC 金融システム統括部プロフェッショナルの新藤佳子氏 アイシンのデジタルヒューマン技術と組み合わせたパートナーAIシステムの「NEC Personal Consultant」のほか、複数の金融機関とともに立ち上げた地域金融機関生成AI共同研究会をはじめとした金融分野での取り組み、NECグループにおける先行活用事例などによる製造業分野での取り組みについて触れた。 ■ 人間に近い自然なコミュニケーションを行えるNEC Personal Consultant 1つ目のNEC Personal Consultantは、NECが持つパーソナルアシスタント技術と、アイシンのマルチモーダル対話エージェントを組み合わせることで、人間に近い自然なコミュニケーションを行うことができるのが特徴だ。 アイシンが開発したSayaと呼ばれるデジタルヒューマンが、表情や視線、ジェスチャーなどの非言語表現を、適切にリアルタイムで行うことにより、温かく自然な対話ができるという。 ここでは、NEC Generative AI Frameworkにより、業務や利用シーンに最適なLLMを利用できるほか、NECが開発した生成AIの「cotomi」を利用することで、業種や業務に合わせた高度な応答を実現する。さらに、NECの顔認証技術を利用することで、信頼性の高い本人確認を実施可能。対話を通じて属性や状況を認識および推測することによって、個々のユーザーに対応した的確なサービスを提供するとともに、対話履歴から会話内容のモニタリングや改善なども行えるとした。 NEC 金融システム統括部プロフェッショナルの新藤佳子氏は、「来店予約アプリから、ユーザー情報をサーバーに登録し、それをもとに対話をスムーズに行う。来店すると顔認識によってログイン。発話を検知するとLLM側で、応答内容を生成し、音声合成によって発話する。同時に、内容に合わせた表情や声、しぐさで対応できるようにしている」という。 金融機関での相談窓口を想定した利用では、ファイナンスプランナー2級の過去10年分のテスト問題と回答とともに、金融分野の有識者が作成した情報をRAGデータに使用。さらに、モーション制御などにはLLMを活用し、自動生成しているほか、アイシンが持つマルチモーダル対話技術では、リアルタイム対話、マルチモーダル対話、フォトリアルな描画を採用。心理学に基づいた複雑なアルゴリズムを開発して、自然な動作を生成しているという。 「4万枚以上のまゆ、目、口、顔、身体の画像を、100ms単位で時空間に組み合わせて描画したり、オーディションで採用した声優を活用したり、アートエンタメとしてのキャラクターの作り込みなどにもこだわっている」と説明した。 NECでは、金融コンサルタントやショップアシスタント、サービスカウンター、広告・販促アシスタント、行政カウンターなどでの利用を想定。インバウンド対応にも活用できると見ている。デジタル操作に不慣れな人、情報を確認しながら納得感を持って選択したい人、対話によって、悩みや迷いを解決したい人たちをターゲットにしている。具体的には、退職金の資産運用に関して、AIとの対話を通じて相談をするといった用途などが見込まれている。 NEC デジタルファイナンス統括部ビジネスプロデューサーの西村知可子氏は、「情報社会において、テクノロジーが多くのメリットを生み出す一方で、情報過多で何を選択すればいいかわからない、高齢者を中心にデジタルが使えず、取り残される人が増えているという実態もある。NECでは、テクノロジーの力で、誰ひとり取り残さない社会を目指しており、そこに、NEC Personal Consultantが貢献できる。Generative AIが持つ豊富な知識で、新たな気づきを得るだけでなく、Digital Human Robotによって、言葉以外での意思疎通が可能になり、みんなに親しまれる存在となる。情報やサービスに快適にアクセスできるようになることで、人とAIの新たな未来を実現する」と述べた。 NEC Personal Consultantは、東京・三田の本社1階にデモ環境を設置。金融機関での相談窓口を想定したデモンストレーションを行えるようにしているほか、今後は、ホテルの窓口、交通機関のサービスカウンターなどを想定した提案も行う予定だ。 ■ 地域金融機関生成AI共同研究会をはじめとした金融分野での取り組み 金融分野での生成AI活用では、地域金融機関生成AI共同研究会における取り組みを紹介した。同研究会は、NECが中心となり、地方銀行11行、信用金庫が3金庫の14の金融機関が参加。金融機関と一緒になり、業務の効率的や高度化を実現する安全な生成AI適用を目指している。 NEC デジタルファイナンス統括部ディレクターの杉山洋平氏は、「生成AIに関するノウハウや人材が不足していることや、十分な情報収集に課題があること、安全性に対する不安があるといった声も聞く。共同研究会では、知見やアイデアを持ち寄って、共同で課題を解決しながら、検討や検証を進める場を創出することになる」とした。 活動方針として、実機検証による「共同検証」、事例を共有するネットワーキングの場などを通じた「ナレッジ共有」、NEC主催の勉強会などによる「人材育成」の3点を掲げており、2024年7月30日から活動を開始。2025年2月までに、9回の研究会を開催する予定だ。11月からは共同検証を開始することになる。 一方、金融データ活用推進協会(FDUA)では、生成AI-WGに、NECがアドバイザーとして参加しており、金融生成AIに関するガイドラインや実務ハンドブックを制作。さらに不正・犯罪対策-WGにもNECが参加して、生成AIを活用した対策や、生成AIを活用した犯罪手口の研究などを進めていくという。 また、金融機関における導入事例として、三井住友海上のケースを紹介した。損害サポート部門において、経過記録要約システムを導入。人手で行っていた応対履歴の記録を、生成AIと音声認識技術を活用して、通話内容をリアルタイムに自動でテキスト化するとともに要約作業も行う。事故対応業務プロセスを変革することで、年間で約29万時間の削減が可能になると見込んでいるという。 ■ 製造業における生成AIの活用事例 製造業における生成AIの活用事例としては、製造子会社であるNECプラットフォームズにおける2つの取り組みを紹介した。 いずれもNEC自身が、最初の顧客となる「クライアントゼロ」として取り組んでいる事例だという。 ひとつめの「トラブルへの対処対応レコメンド」では、LLMを活用して製造現場の設備や品質不良、生産効率性の低下などの問題解決を支援。過去のトラブルデータをもとに、対話形式で簡単に情報を検索し、対処方法などを確認。ナレッジの継承や生産効率性の維持を実現できる。2024年3月に技術的実現性を検証。RAGを用することで、ハルシネーションを抑制し、高い精度で情報を引き出すことができたという。 NEC スマートインダストリー統括部プロフェッショナルの高野智史氏は、「検索結果を向上させるための工夫として、データの標準化や構造化が必要であることがわかった。NECのデータサイエンティストがデータモデルテンプレートとして整備し、事例検索の正答率を向上させることができた」という。 2つめの「工程FMEA(故障モード影響分析)の自動生成」では、LLMを活用してFMEAを自動で生成。製品品質の向上を支援することを目指している。 「生成AIにより、誰が作っても、FMEAの品質のバラつきをなくし、信頼性を高めることができる。NECプラットフォームズでの実証実験では、数多くのリスク項目を洗い出すことができ、属人化を防ぐことができた。だが、AIの回答精度を高めるためには、人により、不要なものを省くチェックやレビューが必要であることがわかった」と述べた。 実証実験では、品質コストで15%の改善、作業生産性で25%の改善が実現できることもわかったという。 またNECの高野氏は、「製造業の現場では、技能継承に向けて、ベテランのナレッジをデータとして蓄積する動きはあるが、これを有効活用できていないという課題が生まれている。生成AIにより、若手の業務遂行を支援したいと考えている。まずは、自社実践を進めており、その成果を広く展開していくことのになる」と述べた。
クラウド Watch,大河原 克行