死者が出た住宅の「特殊清掃」、元Jリーガーが防護服姿で…「遺族のチームメートだと思って作業」
スポーツ選手の引退後のセカンドキャリアに、亡くなった人の自宅の清掃を行う「特殊清掃」の仕事を選んだ元Jリーガーがいる。世代別日本代表の経験もある尾身俊哉さん(29)は、横浜市内に専門の会社を設立し、遺族と日々向き合っている。(村松魁成) 【写真】孤独死の現場…事故物件はどこまで告知すべき?
「臭いが漏れないよう、入室したら扉はすぐ閉めるように」
埼玉県狭山市の住宅で昨年12月4日朝、防護服に身を包んだ尾身さんが従業員に指示を出していた。一人暮らしだった70歳代男性が亡くなり、発見までに約1か月かかったという戸建てを4人で清掃する。
玄関を開けると、マスク越しでも刺激臭が鼻をつく。医療用洗剤を使って床などを磨き、写真など遺族に返す物と、リサイクルや廃棄する物とに分けていく。2日間作業し、運び出したのはトラック3台分に及んだ。
同県熊谷市で生まれ育った。兄の影響でサッカーを始め、高3の時に横浜F・マリノスユースで全国制覇を経験した。世代別日本代表にも選ばれたが、進学先の専修大ではけがに悩まされた。J3の「YSCC横浜」に入団したものの途中出場が続き、2021年に現役生活を終えた。
引退後はまず農業を始めたが、「人がやりたがらない仕事を」と考え、遺品整理のアルバイト経験があったことから特殊清掃をやろうと思い立った。「アシスト湘南」という会社を1年ほど前に設立し、社長として社員2人を抱える。
携わった現場は100件以上。疎遠のまま亡くなった父親が孫の写真を飾っていたり、「娘と孫ができて幸せな人生だった」と書かれた日記が見つかったりもした。遺族に代わって住宅を片付けるからこそ、わかることは事細かに伝える。わだかまりが解け、「気持ちの整理がつきました」と涙する遺族も少なくないという。
防護服を着ての清掃は夏場は過酷な作業だが、尾身さんは「遺族のチームメートだと思って作業している。住宅の清掃だけでなく、遺族の無念や不安も取り除く。そんな存在でありたい」と語る。
仕事が軌道に乗ってきた今、気がかりなのは、スポーツ一筋で生きてきた人たちの引退後のキャリア形成だ。尾身さんも名刺の渡し方、パソコンの使い方など、何一つわからなかった。会社には今年、元アスリートが入社する予定で、会社で技術を学んだ後、自立できるよう支援したいという。