世界一 レッドソックスが上原に賭けたリスク
信頼を勝ち得た上原「今年は出来過ぎ」
以前も紹介したが、上原の球は、バックスピンの回転数が人並みはずれて凄いため、ボールが浮き上がっているように見える。ただ、第3、4戦は、普段よりもその回転数が落ちていた。相手打者にしてみれば、当てることはさほど難しいことではなかった。 ただ、4戦目以降も、ジョン・ファレル監督の信頼は揺るいでいない。 「彼がマウンドに上がれば、それは我々が、一番穏やかでいられる時間なんだ」 シリーズ第5戦は、8回2死まで先発のジョン・レスターが好投。打席には左のマット・アダムス。しかもレスターの球数はわずか91球。それなのにファレル監督は、右腕を指差しながらダグアウトを出た。 上原自身、「レスターが素晴らしい投球をしていた。左の代打だったので、そのまま投げると思っていた」そうだが、監督は石橋を叩いた。 そして第6戦は、9回を迎えて6対1と大きくリード。それでも上原。裏にはもちろん、上原のここまでの活躍に報いたいという、監督の配慮もあった。 さて、チームにとってみれば上原の存在は、嬉しい誤算となった。それは、本人も認める。 「今年はちょっと出来過ぎ。自分でも怖い」。「自分が抑え役になるとは思わなかった」。
”不良債権”化しない選手との契約で補強
だが、今年のレッドソックスは、上原のようなケースに支えられて勝ち上がっていった。 上原と同じくレンジャーズから移籍してきたマイク・ナポリは、契約前の身体検査で臀部に異常が発見され、一時は交渉が凍結された。しかし、レッドソックスは、シーズン中の故障も覚悟で契約すると、フル出場して、23本塁打、92打点という数字を残している。 昨年、世代交代の流れの中でフィリーズからドジャースに放出された今月33歳になるシェーン・ビクトリーノとは、3年3900万ドルで契約したが、これは当初、リスクの高い契約ではないかと地元メディアに疑問視されていた。ところが、最終的に彼は3割近い打率を残し、出塁率は3割5分を越えた。衰えたと見られた守備も、センターからライトに回ると安定。ゴールドグラブも受賞している。 彼らはほんの一例だが、実はレッドソックスは昨オフ、そういうリスクの取り方に舵を切った。大物を獲得するには、別の意味でリスクが生まれる。”不良債権”化した場合、長期に渡って苦しむことになる。 上原、ナポリの契約はいずれも1年。それならば、失敗してもダメージが少ない。逆に彼らがポテンシャル通りに力を発揮すれば、年棒は格安になる。そういう見立てだった。