世界一 レッドソックスが上原に賭けたリスク
ワールドシリーズ優勝決定 投手として最高の舞台
ワールドシリーズ第6戦が終わり、レッドソックスの優勝セレモニーが始まるタイミングで、メディアもフェンウェイ・パークのフィールド内に入ることを許された。 普段も試合前は入れるが、暗黙の了解として、芝生の上に足を踏み入れることはできない。しかし今回、95年ぶりにボストンで優勝が決まると、仮設表彰台がちょうど遊撃手の定位置付近に設けられたことから、暗黙の了解はなし崩しとなった。 気づけば自分は、ちょうどダスティン・ペドロイアが守る二塁の定位置に立っていた。振り返ると後方には、レッドソックスのブルペンが見える。 思いついてその近くまで行き、今度はマウンドに向かって歩いてみた。それはちょうど20分ほど前、上原浩治が通った道だった。 歩きながら周囲を見上げると、自分がまるで、すり鉢の一番下にいるような感覚になる。四方のスタンドはまるで崖のようにそそり立ち、すべての照明が自分にあたっているかのように、まぶしい。 ここを、ワールドシリーズの、抑えれば優勝が決まる、という状況で上原は駆け抜けた。それはおそらく、投手に与えられる最高の舞台だったのではないか。 第5戦をものにしたレッドソックスは、王手をかけて地元ボストンに戻ってきた。第3戦を不運な走塁妨害で落とすと、1勝2敗とリードを許したものの、そこから一気に3連勝。レギュラーシーズンで97勝を挙げた彼らの強さは本物だった。 圧倒的な活躍でチームを率いたのはデイビッド・オルティーズ。ワールドシリーズで7割近い打率を残し、最終第6戦はもう勝負をしてもらえず4四球。第5戦で勝ち越し二塁打を放ったデイビッド・ロスは言った。 「彼は、別次元プレイしている。どこか、別の惑星から来たのだろう」
上原はもう一人のMVP候補だった
ワールドシリーズのMVPはオルティーズに譲ったものの、プレーオフを通して、ということであれば、上原も候補の一人ではなかったか。 ワールドシリーズでは6試合中5試合に登板。4回2/3を投げて、2安打、無失点、3三振。ポストシーズン全体では、13試合に登板し、13回2/3を7安打、1失点。奪った三振の数は16個に達した。 レッドソックスは16試合を戦ったが、上原が登板しなかったのは、3試合だけ。そんなフル回転を、上原はこう説明していた。 「もう、アクセル踏みっぱなしでやっています」 言い得て妙だ。