「韓国ドラマの『ジャンルレス』が羨ましかった」注目ドラマ『ライオンの隠れ家』松本Pの挑戦
フィクションで社会問題を描くことの意味
――ジャンルレスのドラマはすごく面白いですが、日本のドラマ界だと、企画を通すのが難しそうな気がします。 松本P:そうなんですよ。だから、これはうまく通せたというか。「もっとサスペンスの要素を強くしてほしい」という指摘もありましたが、今回は坪井敏雄監督と「ヒューマンの部分を弱くしたら意味がないよね」と話し、いまのバランスになりました。 ――例えば、主人公・洸人(柳楽優弥)の勤める市役所に、いわゆる社会的弱者の人たちが相談に来る描写などは、ことさらにそこをクローズアップするわけじゃないのに、背景にある問題や時代が見えてくる。社会問題を描こうという思いは、もともとあったのですか。 松本P:金曜ドラマはそういう部分が出せる枠でもあるし、日本のドラマで自分がバイブルとしているのが、坂元裕二さん脚本の『それでも、生きていく』(2011年/フジテレビ)という、少年犯罪の加害者家族と被害者家族のドラマでもあるので、意識はありました。 フィクションの物語の中だからこそ、こういうことで苦しんだり悩んだりする人がいるんだということが、自然と入ってくるところはあると思うんです。ドキュメンタリーは、自分で見ようとしないとなかなか出会わないですが、ドラマは間口が広いので。それを直接的に描きたいというよりも、何か感じてくれる人がいたらいいなという意図は、企画してきたどのドラマにも共通してある気がします。 ――テーマとして直接的に描いていないからこそリーチできる層や、響くものはありますね。 松本P:こういう問題を描きたいと言葉で説明するのは簡単ですが、映像にしたときにセリフや描写の中でどこまで伝わるのかは、いつも本打ち(台本に関する打ち合わせ)で徹底的に話し合います。
異色の脚本家タッグが生まれた理由
――脚本を担当している徳尾浩司さんと一戸慶乃さんはどういった経緯で決まったのですか。 松本P:2年半前に企画が通ったときに、プロットを一緒につくってくれるプロットライターを探していたんです。そこで当時、業界誌の『月刊ドラマ』で(映画脚本界の芥川賞と言われる)城戸賞準入賞をとった一戸慶乃さんの作品を読み、セリフがすごく素敵で面白かったので、一緒にドラマを作りませんかとSNSでDMを送りました。 ――一戸さんとプロット開発を進める過程で徳尾さんに声をかけたのですか。 松本P:徳尾さんとは、『私の家政夫ナギサさん』と深夜ドラマの『この初恋はフィクションです』を一緒にやっていて、ラブストーリーが多かったんですが、『この初恋は~』はミステリー要素もある学園モノで、徳尾さんと一緒に作るのがすごく楽しかった思い出があったんです。 私がゴールデンプライム帯でサスペンス要素を作るのが初めてということもあり、徳尾さんに一緒にやりませんかとお声掛けしました。一戸さんがプロット、徳尾さんが脚本にするという形ではなく、一戸さんと徳尾さん、お二人の良さを混ぜ合わせるために、共同脚本という形でやりませんか? と提案しました。一戸さんは連続ドラマを書くのが初めてなので、今後のためにも経験の場になればという思いもありました。 ――キャリアのある脚本家さんには、共同脚本に抵抗ある方もいらっしゃると思いますが、徳尾さんはどんな反応を? 松本P:実は、お二人はこれまで何の所縁もなかったので、断られることも想定していたんですが、徳尾さんはすごくおおらかで心の広い方なので、「面白いですね」と言ってくださって。そのほうが良い作品になるとプロデューサーが思うならやりましょうと。 最初は、どういう風に共同で進めるか試行錯誤でしたが、一戸さんも遠慮せず活発にアイデアを出してくれたり、徳尾さんがベテランらしくそれを面白くまとめてくださったり、物語の枠が出来てからはスムーズに進んでいきましたね。