暗黒物質の謎に迫る、原始ブラックホールに予想外の「副産物」
最初の100京分の1秒
ダークマターの正体については、未知の粒子説から異次元説に至るまで、さまざまな説が発表されてきた。しかしホーキング氏のブラックホール理論が有力視されるようになったのは最近だ。 この理論についてMIT大学院生のエルバ・アロンソモンサルベ氏は、「10年ほど前までは多分、あまり真剣に受け止められていなかった」と解説する。「ブラックホールはかつて、とらえどころのない存在とみなされていて、20世紀初頭には、物理的存在ではなく単なる数学的な遊びと思われていた」 今ではブラックホールはほぼ全ての銀河の中心に存在することが分かっている。ブラックホールの衝突によってできたアインシュタインの重力波が2015年に発見されたことで、ブラックホールが至る所に存在することがはっきりした。 「実際のところ、宇宙はブラックホールで満ちあふれている。しかしダークマター粒子は、あると想定される全ての場所を探しても、発見されていない。それでもダークマターが粒子でないとは言えず、間違いなくブラックホールだとも言えない。だが、ブラックホールがダークマターの候補だという説はかなり真実味を帯びてきた」とアロンソモンサルベ氏は言う。 同氏らの研究では、原始ブラックホールが最初に形成された時に何が起きたのかを調べている。 6月6日の学術誌に発表された論文によると、原始ブラックホールはビッグバンの最初の100京分の1秒の間に出現した。「これはものすごく早い。あらゆる物質を構成する陽子と中性子が形成された瞬間よりもずっと早い」(アロンソモンサルベ氏) 日常世界で陽子と中性子が分離することはない。陽子と中性子はさらに小さなクオークという粒子でできていて、グルーオンという別の粒子で結合されている。 「現在の宇宙は低温すぎて、単独で自由な状態のクオークやグルーオンは発見できない」「しかし非常に高温だったビッグバンの初期は、単独で自由な状態で存在していて、原始ブラックホールは自由なクオークとグルーオンを吸収して形成された」(アロンソモンサルベ氏) こうして形成されたブラックホールは、恒星の崩壊でできた一般的なブラックホールとは根本的に異なる。しかも原始ブラックホールは大幅に小さく、平均すると小惑星ほどの質量が、原子1個分の体積に凝縮されている。だが、もしこうした原始ブラックホールがビッグバンの初期に蒸発せず、現在も残っているとすれば、全て、あるいはほとんどのダークマターについて説明できる可能性がある。