暗黒物質の謎に迫る、原始ブラックホールに予想外の「副産物」
極小ブラックホールの痕跡
原始ブラックホールの形成期には、ほかにも未知のブラックホールが副産物として形成されたと論文は推定している。その質量はさらに小さく、サイ1頭ほどの質量が、1個の陽子にも満たない体積に凝縮されていた。 そうした極小ブラックホールは、クオークとグルーオンで構成されていることから「色電荷」という特異な性質を獲得できたと推定される。これは普通の物体にはない、クオークとグルーオン特有の電荷状態だとカイザー氏は解説する。 一般的なブラックホールは電荷をもたないことから、こうした色電荷をもつブラックホールは特異な存在だった。「(原始ブラックホール形成の)副産物として、こうした極小ブラックホールの形成は必然だった」とアロンソモンサルベ氏は言い、「しかし既に蒸発してしまい、今はもう存在していないだろう」と指定する。 だが、この極小ブラックホールがもし、ビッグバンが始まってからの1000万分の1秒の間に存在していたとすれば、この間に形成された陽子と中性子のバランスを変化させることによって、観測可能な痕跡を残した可能性がある。 「形成される陽子の数と、形成される中性子の数のバランスは非常にデリケートで、当時宇宙に存在していた別の物質に左右される。もしも色電荷を帯びたブラックホールがまだ存在していたとすれば、陽子と中性子のバランスを(どちらか一方に有利に)変化させた可能性がある。あと数年で、われわれはそれを観測できるかもしれない」(アロンソモンサルベ氏) カイザー氏によると、観測には地球上の望遠鏡か、人工衛星に搭載した高感度の計器を利用できる可能性がある。しかし、別の手段でもこうしたブラックホールの存在を確認できるかもしれない。 「ブラックホールの集団形成は非常に激しいプロセスを伴い、周囲の時空に巨大な波紋を生じさせる。それはやがて宇宙の歴史の中で弱まっていくが、ゼロにはならない」とカイザー氏。「次世代の重力検出装置であれば、そうした小さな質量のブラックホールを垣間見ることができるかもしれない。この特異な状態の物質は、現代のダークマターを説明し得る平凡なブラックホールの予想外の副産物だった」と話している。